東日本大震災の折、私はエンジニアができることで何か被災地支援ができないかと考え、「Hack for Japan」というコミュニティーで活動していました。コミュニティーでは支援物資が必要な避難所に届くようなマッチングシステムや、ボランティアセンターの受け付けシステムなどを作ったのですが、実際には使われなかったことが数多くありました。

 これはサービスデザインの考えが欠如していたために起きたことです。システムは使われて初めて価値が出るもの。被災地の担当者は、システムへの対応だけでなく、ほかにもたくさんやることがあります。そうした人たちが使えるようなシステムでなければ、意味がないのです。

 私はデジタル推進派ですので、最終的にはサービスの全体をデジタル化することで、データの活用や効率化を進めなければいけないと思っていますが、スタッフのオペレーションにおいてデジタルはひとつの手段にすぎません。スタッフの体験の最適化も考えなければ、これを進めることはできないと考えています。

 接触確認アプリにせよ、保健所のデータ管理にせよ、運用するスタッフも含めた広義のユーザー体験の検討が抜け落ちていたのではないでしょうか。残念なことですが、この経験をしっかり生かして、よりよいサービス体験を設計していかなければと感じます。

 これは新型コロナに対応したシステムだけの問題ではありません。使われるプロダクトには、サービスデザインを含めたプロダクトの司令塔となるプロダクトマネジャーが不可欠ですが、そのプロダクトマネジャー不在という日本のITの課題の現れでもあるのではと考えます。厚労省も新型コロナ対策にアプリをはじめとしたITを本気で活用しようとするのであれば、プロダクトマネジャーの設置も検討していただきたいと思います。

日本はウィズコロナ時代のビジョンと
ロードマップを持つべき

 さて、これから私たちがウィズコロナ時代を生き抜くためには、サービスデザインの考え方を生かして、接触確認アプリなどのシステムを改善するだけでは十分といえません。まずは、実現したい社会の「ビジョン」を作り、そこへ至るまでの「ロードマップ」が必要になります。

 前回の記事でも「ウィズコロナ時代、日本はどういう社会を作りたいか、ビジョンを明確にしなければならない」という考えを述べましたが、これはどういうことか、プロダクトマネジメントになぞらえて説明してみましょう。