個人情報に頼らない形で
感染リスクが分かる仕組みやアプリ

 では人々の不安の払拭や感染減少のために、接触確認アプリ以外では、どういうものが必要になってくるのでしょうか。個人の活動ではやはり、ソーシャルディスタンシング、3密を避ける行動をどうすれば実現できるかを、テクノロジーで解決できればいいと思っています。

 私などは、自分が出かける場所がどのぐらいリスクが高いかを、もう少し分かりやすく提示されなければ、今のままでは積極的に外へ出かけられないと感じています。例えば、今いる場所が換気できているか、感染の危険度が高いエリアかどうか、といったことが分かるようになっていれば、より安心できますし、もし今いる場所が危険地帯だとなれば、逆にその外へ出ないようにする、といった対応も取れるでしょう。

 こういった判断を個人がするためには、政府がきちんとデータを取得できていなければなりません。今回の接触確認アプリでは位置情報は取得されないのですが、本当は、個人情報をなるべくひも付けない形で地理情報も付加し、感染の広まりをできるだけリアルタイムに近い状態で見られることが望ましいと思います。

 そのデータをきちんと分析した上で、どうすればいいかを検討し、検討した内容を全て透明性を持って公開して、個人の行動変容を具体的に促すようなものが必要と考えます。これは接触確認アプリとは別のアプリ、またはアプリではない何らかの仕組み、施策でも構いません。産業界で通常行われている「IoTでデータを解析し、業務を改善していく」というのと同じようなことが、ここでも必要だということです。

 現在、各業界でガイドラインが策定されていることはとてもいいことですが、そこにITを入れれば、もっと望ましい仕組みになるのではないかと思います。ガイドラインに合わせた行動をサポートするような仕組みや、ガイドラインに沿って対策が行われているかどうかが顧客に分かるような仕組みは、ITを活用すれば、もっと実現できるのではないでしょうか。

 例えば、Google マップや検索で示される店の混雑状況や待ち時間などと同じような情報を、よりリアルタイムに近い状況で表すことができれば、「この店は今なら空いていてリスクが少ない」といったことが分かり、客の利用の分散化にもつながります。JR東日本や私鉄各社が電車の混雑情報をアプリやディスプレーに可視化したり、乗換案内アプリの混雑予測を通知する機能なども有効かと思います。

 このように「あらゆる行動情報が丸見えになる」のでもなく、「何も分からない」というのでもない、ウィン・ウィンな形でデータの活用を行って、ウイルス感染を広めないことができれば、それが一番望ましい姿だと私は考えます。

(クライスアンドカンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)