プロダクトマネジメントにおいて「ビジョン」を掲げるときには、どんな時間軸でも構わないので、例えば1年後、3年後、5年後、10年後に実現したい社会や世界をビビッドに描くものです。

 しかし現在は、オリンピックを延期してでも開催しようとしているために、コロナ影響下における社会のビジョンが描きにくくなっている可能性があります。新型コロナ感染症では「もし○○が△△なら□□」といった条件によって変化する変数が多いことが、今後の予測を難しくしています。その変数の振れ幅が非常に大きい要素のひとつがオリンピックなのです。

 そうした中でビジョンを示すには、例えば仮にオリンピックを2021年7月に開催しようというのであれば、「来年の7月、こういう状況になっていたい」ということをイメージビデオなどで示してもいいと思います。そういうイメージづくりは、政府や企業はお得意なのではないでしょうか。

 オリンピックを開催するとして、そのときには人々のどんな不安が何によって払拭できているか、そして感染者をどうやって少なくできているのか……。感染者を減らすための手段のひとつとして、接触確認アプリがありますが、このアプリだけでは、来年7月にオリンピックが開催できる世界は実現できません。

 接触確認アプリでは、インストールされたスマホが1メートル以内に15分接近していた場合を、疫学上のリスクの対象としています。ただし、新型コロナウイルスでは飛沫感染だけではなく、物を介した感染も確認されています。ですから、アプリ単体で新型コロナウイルスによる疫学上のリスクを解決することはできないのです。

 そこで「アプリではビジョンに対して、この部分までが実現できます」ということに加えて、「ほかの部分はどんな手段で実現しますか」という問いに対する答えが必要になります。これらが全てそろって、初めてロードマップとして示せるのです。

 私は個人的には、来年オリンピックを開催することは不可能ではないかと考えていますが、開催するにせよ、しないにせよ、「来年の今ごろ、日本はかくあるべし」というビジョンと、そのために必要なロードマップは持つべきだと思います。