アプリのユーザー体験は
利用前から始まっている

 接触確認アプリにまつわる国や社会の対応を見ていると、日本のITに対する無理解が表れ続けているように感じます。私はこれをユーザー体験(UX)について再度考える、良い機会ではないかと捉えました。

 UXについては研究者や実務家が2010年に議論した成果が、UX白書としてまとめられています。白書によれば、ユーザー体験はプロダクトの利用中だけではなく、利用前・利用後も含めたものであり、利用前に体験を想像する「予期的UX」から利用中の「一時的UX」の積み重ね、利用後に体験を内省する「エピソード的UX」までを累積した全体を通して考えるべきものとされています。

UXの期間と種類作成:及川卓也(禁無断転載)
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 接触確認アプリについては、このうちの利用開始前の予期的UXが特に良くありませんでした。またネットを介した「共体験」も悪かったといえるでしょう。そもそもどういうアプリかがきちんと理解されていない上に、不具合が続くことで、ユーザーの不安も増えてしまいました。リリース時点でのネガティブな印象を、いかにポジティブに持っていくかが大切だったにもかかわらず、逆にネガティブな印象を増幅する結果となってしまっています。

共体験作成:及川卓也(禁無断転載)
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“使われる”システムには
サービスデザインの考え方が必要

 接触確認アプリに限らず、新型コロナウイルスへの対応で図らずもIT活用の遅れが露呈した日本。IT活用促進の第一歩として、UXと同時に検討すべきなのが「サービスデザイン」という考え方です。

 モノからコトへと消費が移る現代においては、サービスを単にユーザーに提供されるだけのものと捉えてはいけません。サービスはユーザー体験だけでなく、提供するスタッフの体験も含めて設計すべきもの、というのが現代的なサービスデザインの考え方であり、IT活用の場面ではシステムと共に検討されるべき内容です。

 サービスデザインについて、医療機関から保健所への新型コロナ感染者の届け出を例に、見ていきましょう。これまで、感染症の診断をした医師は、保健所への届け出を所定の様式の紙に手書きで記入し、FAX送信で行っていました。今回、新型コロナ感染症を診ていたある医師のツイートをきっかけに、内閣府と厚生労働省が動き、5月から発生届のWeb化が可能になりました。

 このこと自体はデジタル化の第一歩となる動きで喜ばしいのですが、実際のところは現場の保健所で対応しているところは少なく、なかなか浸透していないのが現状だといいます。これは何か、デジタルに簡単に置き換えられない理由があるのではないか、と私は直感したのですが、やはりデジタル化により、かえって保健所の業務が増すことや、セキュリティーの確保、個人情報の扱いへの懸念など、いくつかの課題があるようです。