「肥満の患者は
重症化しやすい傾向があった」
現場の医者からの評価が高かったのは肥満。「肥満の患者は重症化しやすい傾向があった」(コロナ重症者受け入れ病院に勤務する呼吸器外科のM医師)という。
さらに、人工呼吸器が必要なほど重症化した肺炎では、患者を伏臥位(うつぶせ)にすることが症状の改善に寄与することがあるが、肥満体だと伏臥位が難しい。「米国など肥満率が高い国では伏臥位療法ができなかった患者が少なくなかったと聞いている」(フリーランス麻酔科医のF医師)といった声もある。
桑満院長は個人的見解のファクターXとして、「島国」という説を挙げた。「地続きの国境を持つ国に比べると、日本のような島国や、地続きの国境線が短く半島部分が多い国は、人の往来が少ない」(桑満院長)からだ。
東・東南アジア、オセアニアには島国や半島国が多い。実は中南米のカリブ海諸国の中には、人口100万人当たりの死亡者数が日本よりも少ない国が複数ある。
存在の真偽も定かではないウルトラCに
コロナ対策を依存するのは危険
相関関係だけを見ていけば、限りなくファクターX候補が増えていきそうだが、桑満院長は「特定の要因に限定し、コロナの死亡率が低い理由を説明することは不可能」だと言及する。
東南アジアなどの発展途上国の人口動態を見ると高齢化率が低く、重症化しやすい高齢者人口がそもそも少ない。日本のケースでいうと、高齢者が多い介護施設でのクラスター(集団感染)の発生が欧米に比べて格段に少なかったことが、死亡率の低さに寄与している面もある。
「正直、日本にファクターXというものがあるならば、介護従事者の頑張りに尽きると思っている」(大学病院内科のN医師)という証言もあり、ファクターX候補とされているもの以外にも、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果、「日本の奇跡」が起こったと考えるのがよさそうだ。
ファクターX自体の存在の真偽については、名付け親の山中氏も、自身のコロナ情報サイトにおいて、コロナ対策を考える上で「ファクターXのみに依存するのは危険」と述べている。
アポロ11号が月に行った当時、突然、月や宇宙に詳しいと主張する自称“専門家”が雨後のたけのこのようにテレビに登場した。「コロナ危機の現在は、当時の状況と非常によく似ている」と桑満院長は言う。
メディアでは、にわか専門家が「私の考えた最強のコロナ対策」を声高に叫ぶ日々が続いているが、桑満院長をはじめ結局のところ現場の医者たちは、「手洗い」「マスク」「3密回避」が最大のコロナ対策だと口をそろえる。
ファクターXというウルトラCに過度の期待は抱かず、当たり前の感染対策をしながら、治療薬やワクチンの開発を待つしかないというのが現実である。
Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata