私のような説を唱えている医師は、まだどこにもいません。しかし、これは想像ではなくエビデンス(検証された結果)に基づいたものです。

 私は、患者1人につき1時間は時間をかけてじっくり診察していますが、彼らの8割方にはPTSDの症状が見られます。これは、患者の症状をきちんと分析しないと、見えてこない。いつも憂鬱感に悩まされるうつ病に対して、非定型うつ病は嫌なことに対するレスポンスなので、嫌な記憶を取り除いてあげればいいわけです。

治療法は嫌悪刺激を消去すること
しかし職場の協力を得るのは難しい

――では、「非定型うつ病」にはどんな治療法がありますか。

 嫌悪刺激を「消去」することが必要です。マウスの実験を例に考えてみましょう。電気ショックを与えるとマウスはフリージングを起こしますが、その際、前もって「ピー」という音を出したり、赤いランプを付けるようにする。それを3~4回繰り返すと、マウスは条件反応により、赤いランプを見たり音を聞いたりしただけで、フリージングするようなります。

 そうした状態からマウスを解き放つには、消去学習が必要。今度は、音を鳴らしたり赤いランプを付けても電気ショックが起きない状態を何回か体験させると、もうフリージングしなくなります。

 これを人間に当てはめると、患者を嫌な上司の前に何度も出して、怒らせるのではなく、「いつもよくやっているな」と優しい言葉をかけさせればいい。

 しかし、普通に考えれば、それは簡単なことではないでしょう。会社は本来、営利を目的にする団体であって、社員の治療のために存在するわけではないですから。

――とはいえ、普通のうつ病と違って、「消去学習」というはっきりした治療法があるとすれば、患者が職場に復帰できる可能性も高いと思われます。

 マウスの実験と違って、人間で同じことをやるのは難しい。職場の協力も必要ですが、本人の我慢がどこまで続くかが最大の問題です。