「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。干し柿、モチも美味しゅうございました」などと書かれた遺書は多くの人々の涙を誘い、私もよく覚えている。

 山田は「川端康成はこの遺書を『千万言もつくせぬ哀切』と評し、三島由紀夫は『壮烈な武人の死』と評し、スポーツ評論家・川本信正は『円谷は日本人の愛国心に殺された』と評した」と淡々と記す。

 仕事に追い詰められ、自殺を選択するサラリーマンを見ているようだ。

 35歳で自殺した芥川龍之介。彼は病にも悩まされていたが、山田は「自分の自殺の動機について『……少なくとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である』と告白した『或旧友へ送る手記』を書き……」と自殺の様子を記す。

 中高年の中には仕事への意欲を失い、鬱状態で死を選ぶ人が、今も多い。

 本書に記載された929人(数え間違いがなければ)の死者のうち、軍人の自決を除けばいわゆる自殺者は少ない。この3人のほかでは太宰治や田宮二郎くらいなものか。

 本書で、死者の記録を読むことで、如何に生が重要かを学ぶことができる。

 たとえば107歳で亡くなった彫刻家の平櫛田中(ひらくし・でんちゅう)は、「90歳の時、還暦を迎えた弟子に、『君が死んだら、あと困るなあ』と真顔でいった」と山田は記す。平櫛は自分が死ぬなんてことは考えていないのだ。

 121歳で亡くなった泉重千代は、「彼は毎日自分を見学に来る客に会うのを唯一の愉しみとし」「客が来れば黒糖酒(焼酎)をふるまい、客の来ない日はふきげんになった」と山田は記す。なんと意欲的なのだろう。