Photo by Kazutoshi Sumitomo

「日の丸メーカーが苦戦する時代に、志を共にする若い社員たちと、日露戦争に勝利した日本のような世界史の奇跡を起こすこと。それが、私の『坂の上の雲』です」──。

 徳重徹は、愛読書である司馬遼太郎の代表作になぞらえて、そう夢を語る。

 場所は、東京・渋谷の雑居ビルにある4畳半程度のシェアオフィス。狭い室内には、Tシャツにジーンズ姿の若者がひしめく。訪れる者は皆、この場所が創業わずか2年で、電動バイクの国内最大手に躍り出たEV(電気自動車)ベンチャーの心臓部だと知って驚くという。

 2010年に誕生したテラモーターズは、電動バイクの開発から製造、販売までを手がける。同社の電動バイクは、家庭用コンセントによる7時間の充電で、約40キロメートルの走行が可能。1回の充電にかかる電気代はわずか約30円だ。

 11年度は前年度の5倍に当たる約3000台を売り、創業2年目にして、同じく電動バイクを販売するヤマハ発動機やホンダといった、世界に冠たる国内バイクメーカーに差をつけた。今年度は6000台を販売し、売上高10億円をもくろむ。

徹底したコストカットで
大手メーカーを圧倒する
低価格を実現

 テラモーターズの強みは、ずばり“低価格”。他の電動バイクが、軒並み20万円を超える中、テラモーターズの「SEED」シリーズは、最安モデルで9万9800円だ。既製部品を多く利用した中国での委託生産と、安価なシリコン電池を採用するといった、徹底したコストカットが、それを可能にしている。また、全国5000店と提携したメンテナンス網も売りだ。

 従来のガソリン車は、大手メーカーによる「垂直統合」の下で生産され、ベンチャーの参入は容易ではなかった。しかし、EVでは、動力がガソリンエンジンから、モーターと電池に切り替わることで、おのおのの部品メーカーによる「水平分業」が行いやすい。しかも、部品数はガソリン車の4分の1と格段に少ない。つまり、ベンチャーが、同じ土俵に上がりやすい産業構造だ。