「トライアル」という名は体を表す
企業文化の醸成と顧客の期待による好循環

 Retail AIはトライアルホールディングスの100%子会社として、小売業のAI化を進める企業。リテールAIカメラやスマートショッピングカートなどハードウェアの製造・販売と、メーカー、小売、卸売業といった流通業界をつなぐ「MD-Link」と呼ばれるデータプラットフォームの提供を行っています。また、自社グループのみならず、スーパーとしては競合となる他企業にもスマートショッピングカートを提供しています。

リテールAIカメラ店内上部に並ぶリテールAIカメラが棚や人の流れを読み取る Photo by M.S.

 顧客の購買行動において、計画購買の比率は20%であり、残りの80%は非計画購買とされています。非計画購買とは、「入店前に購入を計画していなかった商品について、店内で購入を決定すること」を指します。しかし、この非計画購買はこれまで、店内での顧客行動がブラックボックスとなっていたために分析が進んでいませんでした。

 そこでRetail AIが開発・導入したのが、棚の商品や人の流れを読み取るリテールAIカメラと、セルフレジ機能付きのスマートショッピングカートです。POSデータやポイントカードのID情報も活用することで、データ分析と需給予測だけでなく、カート上の画面でリアルタイムな販売促進も行っています。

技術・プロダクト・人と組織(C)及川卓也 2020 禁無断転載

 こうしたスマートストアを実現するには、データ活用技術を持っていること、プロダクト・事業の戦略を立てることが必要ですが、同時にこれらを支える“人”が大切になってきます。

 人間は「できれば変化したくない生き物」です。環境の変化に対応しなくてはならないときに、「まだ大丈夫」と正常性バイアスが働いて、いわゆる「ゆでガエル」の寓話のように致命的な危機に陥ったり、慣性の法則で同じやり方を踏襲してしまったり、といったことがよく見られます。

 しかし、トライアルは新たな打ち手を次々と出し、現場での実証を速いスピードで繰り返して、失敗もしながら、その中でうまくいった方法を採用することで「進化」しているように思われます。「失敗から学ぶ」という考え方が根付いているのは、永田氏が一時、シリコンバレーで起業していたことも影響しているのかもしれません。

 人にとっては心地よくない「変化」をトライアルが積極的に取り入れられるのは、なぜか。これは「ビジョンがしっかりしているから」だと考えられます。

 トライアルグループの主力事業は今でこそリテール事業ですが、同社の祖業のひとつはIT・ソフトウェア開発であり、グループ全体で「ITで流通を科学する」というビジョンがあるそうです。入社してくるメンバーにも「トライアルグループ=リテールテック企業」との認識は強く、永田氏は「自身を含め、社員同士で日常的に、リテールAIやDXについて情報共有をしている」と言います。

 加えて、永田氏は社名にまつわる従業員の意識が、企業文化の醸成に一役買っていると語っています。

「僕は、業務上の課題に対して挑戦的な手段を選ぶかどうか迷っている社員には、『僕らの社名は“トライアル”だよ?』と声をかけ、背中を押します」(永田氏)