英語圏で「trial」というと「裁判、公判」といったイメージの方が強くなってしまいますが、細かいことはよいのです。かの有名なアップルのスローガン「Think Different」だって、英語の正しい文法ではあまり使わない言い回しです。細かい意味よりも聞き心地の良さと分かりやすさが大切なのです。

 工学者で日本の宇宙開発の父と呼ばれる糸川英夫氏は、著作『糸川英夫の創造性組織工学講座』の中で「名前が組織を作る」と記しています。まさに「名は体を表す」です。「肩書が人を育てる」というのもよく言われることですが、トライアルは「会社名=ビジョン」として、社内だけではなく、社外の顧客からも期待されているようです。

スマートショッピングカート
セルフレジ機能付きのスマートショッピングカート Photo by M.S.

 永田氏は「トライアルはいつも新しいことをやっている、という認識はお客さまにも伝わっていて、好循環が生まれています。カートへのセルフレジ機能実装やポイントカードのID化など、さまざまな変更はお客さまに好意的に受け止めていただいています」と話しています。

 これは、米国のIT系プラットフォーマー5大企業GAFAM(Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft)のような企業で起きていることと、同じようなことがトライアルで起きていることを意味します。こうした企業では「プロダクトを出すからには、自身の名前に恥じないものを出そう」と顧客からの期待に応えるスピードが速くなり、自社が掲げるビジョンからもプロダクトがブレなくなっていきます。

「私たちは○○だ!」「我々ならできる!」という気概と顧客からの期待で、よりよいプロダクト・事業が生まれる循環がトライアルでも育まれているのです。

本を通じた「共通言語」の存在が
価値基準の統一に貢献

 DXを実現する企業には、ビジョンのほかに「共通言語」があることも重要です。ソフトウェアの開発手法に「ドメイン駆動開発」というものがあります。これは事業などでユーザーにきちんと使われるシステムを作るための方法論とも言えるものです。その中で「ユビキタス言語」と呼ばれる共通言語、ユーザーと開発者が共有できる言葉を定義して使うことが推奨されています。

 ソフトウェア開発では、実際にシステムを使う人、システムを企画する人も主体性を持って開発にかかわることになりますが、事業サイドの人にとって、開発の細かい技術用語は分かりません。一方、エンジニアも、事業ドメインの細かい部分は分からないわけです。

 リテール業界であれば、店舗で使われる小売業独特の専門用語をエンジニアは知らないことも多いはずです。そこで、システムの開発、ユーザーとの対話に必要となる言葉はすべて辞書のような形で定義して、その用語しか使わないようにしようというのが、ユビキタス言語の考え方です。