手紙週刊誌のスクープ取材の基本は、相手の心を動かす「手紙」だった!?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。今回はスクープにつながる手紙などの交渉術について。強引なだけでは、人の心は動かせません。心の琴線に触れる「思い」を伝えることが大切なのです。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

編集者の「手書きの手紙」が
名優の『遺書』スクープにつながった

 2014年、『文芸春秋』に名優・高倉健の『遺書』が発表され、掲載号が完売になりました。この『遺書』を入手したのは、若手の編集者M君。普段は静かで礼儀正しく、歴史が好きな青年です。

 高倉さんからの『遺書』は、編集部に封書の形で送られてきました。

「八月十五日を考える」というテーマで、各界の有名人にお願いした原稿の1つです。最初に原稿を読んだデスクは「俳優って、やはり不思議ですね。諸行無常で始まり合掌で終わるという文体も、珍しいですね」と見せてくれました。 

 それから数日後のこと。

 高倉さんの死が発表されました。送られてきた封筒を改めて見ると、投函された日付は亡くなられた日。お願いしたタイミングが、文春側にとっては「幸運」だったとしか言いようがないようなスクープでしたが、裏にはちょっとした物語がありました。