大学病院などの大規模病院では、夕方になると、職員通路にスーツ姿の男女がずらりと並ぶ光景が見られる。
社名の入った名札を胸につけ、早歩きで行き交う医師らに会釈を繰り返す。初めて見る人には奇異に映るだろう。
列をなしているのは、MR(メディカル・リプレゼンタティブ、医薬情報担当者)と呼ばれる製薬会社の営業職だ。
MRは、かつてプロパーと呼ばれた。由来は「プロパガンディスト(宣伝者)」。そう呼ばれた時代は医薬品を売り込むために滅私奉公して医師に尽くすという、苛烈な営業が行われた。
「毎晩、一人十万円を超える高級酒場で医師を接待し、休日は大学教授の奥さんの買い物に同行し、犬の散歩や洗車まで行った」と当時を振り返るプロパー経験者。「学会ともなると、医師のためにホテルや交通費も会社負担で用意し、発表用のスライドもすべて無料で作成した」という。
医師への接待攻勢と、昼夜、休日を問わない苛烈な営業の日々――。MRに対し、いまなお、こんなイメージを抱く世間の人は少なくない。
しかし、MRの仕事は今後、こうしたイメージからは遠いものになりそうだ。今年の4月からMRを取り巻く環境が大きく変わったからである。
製薬業界は4月から自主的に接待規制を強化し、MRは医師への接待が実質的にできなくなった。「医薬情報活動に伴う飲食の提供」は金額が1人当たり5000円までに制限され、「医薬品説明会に伴う茶菓・弁当代」は1人当たり上限3000円。先方の経費を負担する娯楽(旅行、観戦、観劇、ゴルフ、釣りなど)は禁止された。