新約聖書の「よきサマリア人のたとえ」

このスピーチの中で思いやりの重要性を説きながら、ローマ教皇が引き合いに出したのが、新約聖書の「よきサマリア人のたとえ」です。

イエスが「隣人とは誰のことですか?」と問われたとき、つまり「誰の面倒を見るべきか?」と聞かれたのですが、イエスはこんな話をしました。
ある男が襲われて身ぐるみ剥がされ殴られて道にうち捨てられていました。
当時の有力者層だった祭司やレビ人は、彼を見ても立ち止まることなく通りすぎました。
しばらくして、当時非常に蔑(さげす)まれていた民族のサマリア人が通りかかりました。
地面に横たわる傷ついた男を見て、そのサマリア人は無視したりはしませんでした。
この男をあわれに思い、いても立ってもいられず、行動に出ました。
サマリア人は、この無力な男の傷口にオイルとワインを注ぎ、男を宿屋に連れていき、男の治療費を自分で払いました。

これは世界的に非常に有名なストーリーです。

たとえば、様々な国で「よき隣人の法」というのがあります。

善意で人を助けた場合に、意図せず問題が起きてしまった。

その結果によって罰せられたり、訴えられたりしない。

そういう趣旨の法律です。

「よき隣人の法」というネーミングは、このストーリーからきています。

ローマ教皇は「よきサマリア人のたとえ」を現在の世界になぞらえます。

権力者や富裕層は私たちの社会が抱える目の前の大きな問題に見て見ぬふりをする。

しかし、私たちそれぞれが互いに思いやりの心を持って、具体的な行動を取らなくてはいけない。

現在の社会ではエンパシーや思いやり、「共感する力」が最も重要である。

ローマ教皇は、そんな「生き抜く力」のメッセージをTEDで世界中に発信したのでした。

星 友啓(Tomohiro Hoshi)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
【著者公式サイト】(最新情報やブログを配信中)
https://tomohirohoshi.com/