いま若者や起業家、経営者の間で、その「熱さ」が大きな話題を呼んでいる本がある。若手トップのベンチャーキャピタリスト、佐俣アンリ氏のデビュー作『僕は君の「熱」に投資しよう』だ。
シード期(まだプロダクトもなく事業計画のみの段階)のベンチャー企業に対する投資ファンドとして国内最大である300億円のファンドを運営する佐俣氏は、いま日本で最も熱い投資家の一人だ。
その佐俣氏の古くからの友人で、彼から投資を受ける起業家でもあるのが古川健介(通称:けんすう)氏である。大学生時代から掲示板「したらば」の運営会社社長となり、卒業後はリクルートを経てハウツーサイト「nanapi」を起業、現在はマンガ情報サービス「アル」を手掛ける著名な連続起業家である。
そのお二人に、『僕は君の「熱」に投資しよう』の内容を素材として、投資家と起業家の実態や、「熱」を持つ若者へのメッセージなどを思う存分語り合っていただいた。意外にも公式での対談は初めてという超レアな(でも、親しみとホンネあふれる)対談をお楽しみいただきたい。
全3回でお送りする対談連載の第2回は、挑戦の熱源としての「恐怖」や「健全な嫉妬」について。(構成:金藤良秀、撮影:田口沙織)

リクルートでの出会い

──お二人が出会ったのはリクルートに在籍していた時代ですね?

古川健介(以下、けんすう) そうですね。僕は2006年入社で3年くらい在籍していました。

佐俣アンリ(以下、佐俣) 僕は2008年から2年半ほどいましたから、1年ほど重なっていたことになります。僕が2年目で異動したときに、隣の部署にけんすうさんがいました。彼はネットの世界では有名だったので僕にとってはアイドルで一方的に知ってましたね。

「恐怖」や「健全な嫉妬」が挑戦の原動力になる理由佐俣アンリ(さまた・あんり)
ベンチャーキャピタリスト
1984年生まれ。慶應義塾大学卒業後、カバン持ちとして飛び込んだEast Venturesを経て、2012年に27歳でベンチャーキャピタル「ANRI」を設立し、代表パートナーに就任。主にインターネットとディープテック領域の約120社に投資している。VCの頂点を目指し、シードファンドとして日本最大となる300億円のファンドを運営する。著書『僕は君の「熱」に投資しよう』。ツイッターは@Anrit

けんすう 仕事中なのにパソコンの画面にずっとニコニコ動画を映している人がいるんですよ。それがアンリで。「あの人、仕事してるのかな……?」って思ったのが最初の印象です。

佐俣 あの頃は本当に仕事していませんでしたね。アニメ「電脳コイル」の1クールを2日で見終わったりして。

けんすう それを社内の自分のデスクで堂々とやっていましたからね。

佐俣 一時期はずっとデスクで「サンシャイン牧場」というミクシィのソーシャルゲームばかりやってました。そんな頃、ミクシィがオープンプラットフォームへの課金をスタートさせたんです。それをいいことに、僕は大量課金してその一連の事象をレポートにまとめて社内メーリングリストに流したんです。

 すると意外と評判が良かったので、モバイルコンテンツのソーシャルゲームを展開する新規ビジネスを起案して開発を進めることになったわけです。

けんすう 絶対ただ遊んでいるだけだと思ってたんですが、仕事だったんですね! でも、あのプロジェクトはリクルートらしくなくてめちゃ面白かったと思います。

「恐怖」や「健全な嫉妬」が挑戦の原動力になる理由古川健介(ふるかわ・けんすけ)
1981年生まれ。大学時代、「JBBS@したらば(通称:したらば掲示板)」運営会社の社長を務める。リクルートを経て、ハウツーサイト「nanapi」を立ち上げる。同社サービスを継承したKDDIグループのSupership株式会社では取締役を務めた。2019年、アル株式会社代表取締役に就任し、漫画コミュニティサービス「アル」をリリース。愛称は「けんすう」。ツイッターは@kensuu

佐俣 本当はサボってただけなんだけど、仕事につなげることで正当化しようとしたんですね(笑)。そうこうしてたら、けんすうさんが在社中に起業したんですよ。僕は「うまい棒」を持ってお祝いに行った覚えがあります。

けんすう 周りのみんなが起業していたから、僕もなんとなく流されまして。当時は、社内からも社外からも「いつ起業するの?」って言われ続けていて、「え、じゃあ、します」みたいな感じでした(笑)。

 当時のリクルートで僕がいた周りには、その後ジーニーを創業する工藤智昭さんとか、Kaizen Platformの須藤憲司さんとか、じげんの平尾丈さんとか、IT評論家の尾原和啓さんとか、すごい人材がいましたから。

佐俣 リクルートって起業する前提で入る人や、働いているうちに起業することが当たり前の感覚になっていく人がいっぱいいますよね。僕もANRIを立ち上げたきっかけとしては「そういう企業風土の会社にいた」こともあると思います。

「恥をかかずに済んだ」と言って死にたいか

──リクルートでは起業や挑戦が当たり前だったわけですが、一般的には失敗したときのリスクや、人の目が気になって挑戦できない人も多いのでは?

けんすう まず、そもそもリスクというのは「取るか、取らないか」で考えると失敗します。リスクは「管理する」ものだと考えるほうがいい。

 たとえば「月に10万円あればこういう生活費の分配にしておくと死なない」とか「月収が5万円になったら親に借りる」みたいなリスク管理をしておけば挑戦できるはずです。

 リスクを取る・取らないで考えてしまうと、挑戦にかなりの「勇気」が必要になって自分を動かすのもなかなか大変ですから。

佐俣 リスクをどうとらえるかって重要ですよね。国や時代によっては失敗すると餓死する可能性もあるわけですけど、いまの日本ではそれはほとんどない。そんな比較的安全な環境下にあるのに、最期を迎えるとき「自分はやりたいことをやってこなかったな」と自覚しつつ死ぬのって怖くないですか?

 僕はそうなりたくないといつも思っています。この考えが大前提にあるので「挑戦する」ことが当たり前になる。逆に挑戦したほうが幸せになれると信じています。動かないほうがむしろリスクなんです。

けんすう 何かに挑戦し続けていないと、微妙なところに収まって終わるだろうなっていう怖さもありますよね。去年や一昨年と同じことをやっていたら、人は一瞬で老いていくんです。

 僕の学生時代って自分たちみたいなタイプは傍流でした。「意識高い」とか「学生起業家(笑)」とかバカにされまくってて、いわゆる学内でイケてる人たちは商社とかに就職していった。でもいまになってみると、人の目とか気にせず挑戦した人のほうがだいたい生き生きと働いてる感じです。だからそっちもオススメなんですよ。大学時代から知ってるはあちゅうとか、もうめちゃくちゃ面白いと思いますし。

佐俣 そうですよね。どんなに安全な道を行こうが、どんなに人の目を気にして恥をかかないように生きようが、いずれ人は死ぬわけなので。

けんすう 死ぬ前に「あぁ、なんとか恥かかずに生きれてよかった」とか考えないと思うんですよね。

佐俣 『僕は君の「熱」に投資しよう』にも書いたんですが、僕は身近な先輩の突然の死を経験したことがあります。だからそういう意識がより強いのかもしれません。

 でも、何の外的要因もなく、自分だけで動くのってなかなか難しいんですよ。僕の場合は自主性もあまりないですし。

 だから、どんどん挑戦する友人たちのなかに身を置くことで自分を触発するようにしているんです。場に流されるようにしたほうが楽なので。

けんすう 「この中にいたら、やらないほうが恥ずかしい」という環境に居たほうが自分を動かしやすいですよね。

佐俣 そう。挑戦することで負う責任があるほうが楽しいし、僕はそれを心から楽しめるコミュニティに自分の軸を置くことを大事にしています。

 だからこそ、身の回りの本当の友は誰で、学ぶべき友は誰なのか、というのはいつも強く意識しています。同時に、挑戦している人から選ばれるように、自分も恥ずかしくない存在でいようと頑張るということですね。

 たとえば僕が、いま抱えているすべての仕事を投げ出して南の島とかで悠々自適に暮らし始めたら、たぶん僕と話してくれる人はいなくなるんですよ。そうなったら僕はきっと孤独死する。そんなリスクをずっと抱えている感じです。

けんすう めっちゃわかります。