「健全な嫉妬」の大切さ

佐俣 僕は、起業っていわば挑戦し続ける人間だけが参加チケットを持っている隠し芸大会みたいなものだと思っているんです。

けんすう たしかにインパクトのあることをしたやつが、起業家のなかでは一目置かれるみたいな感覚があります。逆に、微妙な成功で満足してしまうと、仲間から見放されそうな恐怖もある。

「恐怖」や「健全な嫉妬」が挑戦の原動力になる理由

佐俣 たとえば2017年に、光本勇介がCASHというサービスをつくって、すぐにDMMに70億円で売却したときには起業家仲間は驚かされましたね。

けんすう リリースしてたった2ヵ月だったのに、あれほどの額で評価されるんだ……と思いました。 これは金額が多いからすごい、というわけではありません。CASHは写真を撮るだけですぐにお金を振り込むという、普通ならかなりリスキーに見える挑戦をして、初日に3.5億円の流通額があったわけです。事実上、スタートアップのサービス開始1日目に3.5億円なくなることになるので、まともな神経ならできません。そして、それを2ヵ月で高額の買収を決めるDMMもすごい意思決定だなと思いました。

 そういうのを見ると、より高い挑戦をしていかないとダメだなと身が引き締まります。

佐俣 起業家のあいだにはそういう暗黙のバトルみたいなものがあります。普段はお茶しているような仲間なんですけど、実は秘めた競争心を持っていて、大きく挑戦していかないとお茶会に呼ばれなくなるという緊張感がある。

 僕は投資家ながらそんな輪の中に入れてもらっている立場なのでよくわかります。

けんすう たとえば、僕がnanapiでお世話になったエンジェル投資家の小澤隆生さんは、自分のつくった会社を楽天に売って、楽天球団の設立とかをやり、また新たにビジネスをつくって次はヤフーに売り、いまはヤフーのナンバー2です。彼はヤフーという組織でそのポジションまで昇りつつ、EC革命を推進し、PayPayとの連携、ZOZOの買収、LINEとの統合などでも挑戦し続けている。そのとんでもなさを見ていると全然追いつけてないなと焦るわけです。

佐俣 起業家って、自分よりヤバい挑戦をした人たちに嫉妬するんです。だけど、それって変に隠す必要もないと思う。同じ嫉妬でも「健全な嫉妬」ならいいんです。この言葉はDeNAの共同創業者・川田尚吾さんが発明したんですが、まさに起業家を表したいい言葉だなと思います。「悔しい~!」っていう純粋な気持ちですね。

けんすう たしかに「悔しい」くらいは言ったほうがいいと思います。変に溜め込まないためにも。その「健全な嫉妬」を次の挑戦の原動力にしていけばいいんですよ。

「恐怖」や「健全な嫉妬」が挑戦の原動力になる理由

(後編に続く)