直感は思考と感性のコンビネーションである

いつが幸せの頂点か。<br />それは死ぬまで見えない<br />【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)

 キムさんの本を読んで、僕が「あっ!」と思ったのは、直感は思考と感性のある種のコンビネーションである、という話があったでしょう。僕もどこかでそれに近いことを言っていたんですよ。

 直感というのは、ただ単なる思いつきではないですよね。直感力のようなものは、思考と感性が結び合わさって、磨かれていく。僕自身、日本の社会に生きてきて、直感は日々の生活の中で自分の中に自然と身についていったんだと思うんです。それは、学識とか、そういうこととは別に、です。そしてこれは、生きていく上ではとても大事な能力です。

 キムさんは、この直感について、学生にどんなふうに説明しているんですか。

キム 自分が直感を信じる以前に、まずは信じるに値する自分を作り上げなければいけないし、磨いていかなければいけないと思っています。それを『媚びない人生』の中では、内面を強くする、と書きました。内面は、思考、感情、言葉、行動によって構成されています。日常のすべての場面で、その4つの力を強くコントロールしながら毎日を過ごしていけば、内面を強くすることができると僕は思っています。

 媚びないというのは結局、最終的には自然体の自分だと思うんです。先生の『悩む力』『続・悩む力』にもあったんですが、自分本来の演じたい、ありたい自分と、外に出していく自分の間でのギャップを感じたときに、人間はネガティブな意味で苦しんでしまうんですよね。それに慣れてしまうと、20年、30年、40年とずっとギャップも苦しみも続いてしまう。ありたい自分と外に出す自分の間でギャップをなくしていくには、やっぱり内面の強さを高めるしかないと僕は思ったんです。

 幸福の基準には、お金も欠かせないものだと考えられていますが、僕自身は、人間が成長する、成熟期に向かっていくプロセスこそ、最大の幸福だと思っています。『続・悩む力』でも、幸せになるプロセスの重要性が書かれていましたね。僕は非常に共感しました。

 生きていく中で、これこそが幸せの頂点だ、ということは、やっぱり死ぬまで見えないと思うんです。そこには到達できない。だとすれば、そこに向かって一歩一歩、確信を持って踏み出しているという感覚が大事になる。それさえあれば、自分は幸福だと自ら認めていいのではないかと思っています。

 キムさんは、学生にそうした自分の経験や、自分が悩み、経てきたがゆえに見えてきたことを、伝えたいという気持ちが強いんでしょうか。

キム 実は、大勢の学生を前に人生論を話したりすることは普段はまずないんです。ゼミも、講義は年に一回だけしかしません。あとは企業との共同プロジェクトをしたり、全員プレゼンをしてもらったり、自ら問いを見つけてもらったりしている活動が中心です。その中で、自分の思いを伝えたり、さまざまな指摘をしていくことはあります。例えば、自分が吸収し、消化した上で言葉を発しているか。また、他者に対して尊厳、愛情を持って言動を行っているか。

 そうした基本的なことは、まっすぐ指摘します。まっすぐ指摘すれば、こちらの愛情を肌で感じてくれると僕は感じています。若い人は、成長の意欲が、とても高い。草食などいろいろ言われていて、熱い姿や成長意欲が高い素振りはなかなか見せないかもしれませんが、青春というのは、そういうものだと思うんです。

 やっぱり成長したいという欲求を秘めて、激しく悩みながら日々、暮らしている。だから、ちょっとした気づきを誰かが本気で与えてくれたときには、彼らは前のめりになってくれるということを、強く感じています。