今の若者論は、大人たちが作り上げたイメージだ

いつが幸せの頂点か。<br />それは死ぬまで見えない<br />【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)

 今、若者論がものすごく交錯していますよね。しかも、飛び交っているのは、中高年が描く若者像や若者論になっている気がするんです。一時期、学校で一人でお昼ご飯を食べるのが恥ずかしいから、一人で食べるならトイレで食べる、という学生がいると話題になりました。でも、実際に若い人に聞くと、いかにもメディア的だな、と言うんですね。

 大人たちが見て、「あ、きっとそういう若者がいるんじゃないか」という“いかにも”という話がどんどん大きくなっていく。でも、実際には、そんな極端な例はほとんどなくて、やっぱり普通の学生はそんなことはしないんですよ。

 一般の世の大人たちが、いかにもこれは今の若者だと思えるような何かを、ものすごく極端に、場合によってはカリカチュアのように示してしまう。そうすると、それがもう若者の定番のように語られるようなところが今の日本にはありますね。極端に引っ込み思案とか、どうしようもないほどコミュニケーションスキルがないとか、そういう若者論は、どうにもちょっと信用できないと僕は思っているんです。

キム おっしゃる通りです。もっというと、気迫がないとか、気概がないとか、大人たちが指摘している若者の問題というのは、実は大人たちにそのまま当てはまっているということに、気づいておかないといけないと思います。自分たちこそ足りないと思っている、ということです。

 でも、大人にとっては、自分たちが感じている大人の姿は、いわゆる高度成長期のもうちょっと前の大人ですよね。ある意味では、一元的な幸福論の時代の中で、迷いもなく、ルートがあって、レールに乗ればやってこられた時代。そんな時代は、今や、もうすっかり変わってしまっているわけです。

 そうした若者を取り巻く時代的な背景を十分理解しようとしないまま、自分たちの時代的な感覚で若者を評価するので、それではまず本当の若者像は理解できないと思います。

 それは韓国もだいたい同じようなものですか。

キム だと思います。ただ、韓国の若者は、ハングリー精神は旺盛かもしれないですね。根拠のない自信を若者が持ちやすい国民性ではあるんです。日本は、自分が自信を持てる根拠を探して、一歩ずつ進んでいきたいという非常に真面目な学生が多い。

 それに対して、韓国は勢い主義とでもいいますか、結果があって、それが自信につながるのではなくて、まずは自信を持って、頑張れば結果は出てくる、みたいな国民性がある。だから、どうしてもポジティブで、攻撃的になりがちなんです。

 今の日本では、なかなか自信が持てない、というところで萎縮してしまう個人が、若者のみならず、社会には大勢います。そうやって悩んでいくことで、絶望的なネガティブな空気が広がろうとしていた。そんな中から、多くの人々を救い出すことができた本が、先生の『悩む力』だったのではないかと思うんです。

 今は誰も幸福論を規定できない、提示ができない状況ですよね。そんな中で、弱い個人というものが、自分の残された命をどんなふうに生きるか、ともがいている人がいる。運命を受け入れ、残された生に対して必死に向き合う人がいる。
  そういうとき、暗いところに、ポッと光を照らしてくれた本だったんだ、と。

 少しほのかな、ね。にじみ出るような光、なんですけどね(笑)。

(後編に続く)

「対談 媚びない人生」バックナンバー

第1回 媚びない人生とは、本当の幸福とは何か 『媚びない人生』刊行記念特別対談 【本田直之×ジョン・キム】(前編)

第2回 大人たちが目指してきた幸福の形では、もう幸福になれないと若者たちは気づいている【本田直之×ジョン・キム】(後編)

第3回 日本人には自分への信頼が足りない。もっと自分を信じていい。【出井伸之×ジョン・キム】(前編)

第4回 世界を知って、日本をみれば「こんなにチャンスに満ちあふれた国はない」と気づくはずだ。【出井伸之×ジョン・キム】(後編)

第5回 苦難とは、神様からの贈り物だ、と思えるかどうか【(『超訳 ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(前編)

第6回 打算や思惑のない言葉こそ、伝わる【(『超訳ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(後編)


 
いつが幸せの頂点か。<br />それは死ぬまで見えない<br />【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)

 

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【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

いつが幸せの頂点か。<br />それは死ぬまで見えない<br />【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)
定価:1,365円(税込)
四六判・並製・256頁 ISBN978-4-478-01769-2

◆ジョン・キム『媚びない人生
「自分に誇りを持ち、自分を信じ、自分らしく、媚びない人生を生きていって欲しい。そのために必要なのは、まず何よりも内面的な強さなのだ」

将来に対する漠然とした不安を感じる者たちに対して、今この瞬間から内面的な革命を起こし、人生を支える真の自由を手に入れるための考え方や行動指針を提示したのが本書『媚びない人生』です。韓国から日本へ国費留学し、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヵ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者。その経験からくる独自の哲学や生き方論が心を揺さぶられます。

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