かねてから噂のあった渋谷駅の大規模建て替えが正式に決定した。東急電鉄、JR東日本、東京メトロの3社による駅周辺の再開発で、現在の渋谷駅舎や東急百貨店東横店のある場所に地上43階建て(高さ約230メートル)の高層ビルを中心とした3棟のビルが建設される。事業規模は約2000億円と見られていて、渋谷駅周辺の再開発事業も含めると1兆円を超える大事業になると予想されている。

 3社が共用する現在の渋谷駅は地上だけでも東横線、JRの山手線と埼京線、東京メトロ銀座線の駅が密集し、建設時期の違いから段差も多く老朽化が著しい駅だったため建て替えは必須だった。再開発を主導する東急にとっても、人口減少時代に沿線価値を維持するためにも東急線のターミナル駅である渋谷駅の価値向上は不可欠だった。

 もっとも、リーマンショックによって都心部の再開発熱も冷めていたため、ここまで大規模な再開発が実現することに懐疑的な見方をしている関係者も少なくなかった。今春には「250メートル級のツインタワーができる」といった報道がなされるなど、情報も錯綜していた。

 ただ駅の利便性向上で集客力の向上を歓迎する声がある一方で、大規模な駅ビルが渋谷の魅力を奪うかもしれないと懸念する声も根強い。

 渋谷は名前が示すとおり地形が谷になっている。その谷底にある渋谷駅から降りてきた人が坂を登るように四方八方へ回遊していくことで、周辺の商業施設や小規模な路面店に人が集まっていた。また、そうした回遊性の高さが渋谷の魅力の源泉だった。

 東急は例えば地下鉄駅から地上への大規模な出口を複数設けるなど、街全体の回遊性を高めようと努めているが、大規模な駅ビルが完成することで人々が駅に滞留してしまう懸念はぬぐい切れていない。実際、札幌など地方都市では新規に開業した大規模駅ビルの“独り勝ち”となっている。

 すでに、駅から若者が集う繁華街である「センター街」を抜け徒歩で10分弱かかる東急ハンズ渋谷店も駅ビルへの移転が噂されており、周辺の店舗は「集客力のある人気店の移転は街の魅力を弱め、人の流れを変えてしまうかもしれない」と不安を口にする。