過去に一度だけ来日して称賛したこと
ちなみに、バフェットは日本株に投資したことはなかったが、一度だけ日本に来たことがある。当初2011年3月に、バークシャーが80%の株式を取得したイスラエルの超硬切削工具メーカーIMCの子会社タンガロイ(旧東芝タンガロイ)の新設本社工場を訪問する予定だった。
その本社工場がある福島県が東日本大震災で被災したため、その訪問は11月になった。そこでバフェットは全社員と一緒に写真を撮り、こういって称賛したという。「もし私が日本で若い技術者だったら、私は間違いなくこの会社で働きたいと思います。」こういわれた社員は、さぞ励まされたことであろう。余談だがその時、工場側はバフェットのためにマクドナルドの特注ハンバーガーを200個、お好みのチェリーコークもたっぷり用意したという。
こっそり1年前から商社株を仕込んでいた
さて、本題に入ろう。なぜバフェットが、日本の商社株を大量に買ったのか。
まずは、バフェット持ち前の「割安株投資」である。バフェットは「質の良い会社を見つけることが大事」と日ごろ言っているが、根底にあるのは、師匠グレアムに教えられた「割安株投資」である。株価が企業の本来の価値より割安であれば、いずれその本来の価値に戻ってきて、その幅が利益となるというわけだ。
母国市場の米国の株価水準は、昨年来、他国市場に比べかなり割高になっていた。バフェットにとっては、米国で投資先を見つけ出すのが難しくなっていたことがうかがえる。そこで、目に留まったのが日本の商社株だったということが想像できる。
プレスレリースによれば、発表時の8月31日時点で、それより1年ほど前から商社株を買い増してきたとのことだ。2019年3月期は商社の過去最高益が相次いだ。しかも当時の2020年3月期の業績見通しは、前期に続きかなり堅調で、2019年8月時点の5社の予想株価収益率(PER)は、丸紅の5倍から高くて三菱商事の6.6倍程度、また株価純資産倍率(PBR)では、伊藤忠商事の1.1倍以外は、4社すべて0.7倍前後で、いずれの指標とも割安感が目立っていた。
またバフェットが重視する投下資本利益率(ROIC)が、十分ではないが増加傾向であったこと、自社株買いや配当方針で、日本の商社が株主還元を意識した姿勢がみられるようになったことも、バフェットの投資を後押ししたと考えられる。
海外の情報が乏しく、なかなか海外の投資先が見つからないとぼやいていたバフェットも、以上のような点に目をつけたのだろう。