バフェットの投資余力は16兆円弱!

今回の商社株の買い付け額は60億ドル程度(約6300億円)と見込まれるが、ある程度の規模の会社でないと、市場でこの金額の買い付けができないというところは、バフェットの悩みでもある。今回の商社株買いは、1年かけている。株価にインパクトを与えないでこの金額を買うのに1年かかったということだ。

いかに60億ドル分も買うのが大変かということだが、一方でバークシャーの現金同等資金は1500億ドル(15.7兆円)に及ぶ。これらのほとんどが投資に充てられる資金である。

ここで2つのことが言える。まずはバークシャーの資金規模から60億ドル程度の投資規模は、バフェットにとって多いものではないということ。一方で、60億ドルでも、ある程度規模が大きい会社でないと買い付けが難しいということである。

バフェットは、今回の投資が長期投資であることを強調している。実際、このプレスレリースでも、アメリカンエクスプレスを29年、コカ・コーラを32年保有していることを例に挙げている。投資された商社側は、ぜひ9.9%まで買い増してもらい、長く持ってもらえるように、バフェットの期待に応えた経営をしてほしいものである。

バフェットに影響され海外投資家も日本株を再評価

バフェットが日本の商社に投資したことは、世界でも大いに注目された。海外から日本に対する投資に再度注目する動きも出ている。

バフェットの期待に応えるため、具体的には、まずは投下資本利益率(ROIC)を上げていくことである。バフェットは投資する際に投下資本利益率を重視する。現状、伊藤忠商事のみが10%台に乗っている模様だが、他4社はまだ十分ではない。10%台には乗せる努力をすべきである。また伊藤忠を覗いて4社はPBR1倍割れ、つまり株価が純資産価値を大幅に下回っている現状にかんがみ、自社株買いを積極的に行い、持続的な増配も行うべきである。

配当利回りは50.5%!
バフェットが投資したコカ・コーラ株の増配の威力

バークシャーが保有するアップル、アメリカンエクスプレス、コカ・コーラなどは長年にわたり、増配、自社株買いに大変積極的だ。コカ・コーラはこれまで58年連続で増配している。バークシャーが32年保有するコカ・コーラの取得コストベースの現在の配当利回りは、いまでは50.5%に達していて、投資額の半分の配当金がもらえている形である。これからも増配を続ければ、さらにその額は増えていくことになる。

株価は取得してから17倍だ。また2016年から2017年に大量に取得したアップルは、自社株買いに大変積極的で、毎年700~800億ドルの自社株買いを実施していて、2016年からこれまで発行株数が20%減少している。これは利益が横ばいでも、1株利益は25%増加することを意味する。また発行株数が減るので、何もしなくても持ち株比率は上がっていく。バークシャーのアップルの持ち株比率も、持ち株数が変わらずに、当初の4%台から5.9%に上昇している。

このようなグローバル・スタンダードの株主還元に日本の商社も少しでも近づくことが、バフェットに長く保有してもらうために必要だ。ちなみにアップルの業績は絶好調で、株価は急上昇し、バークシャーが保有するアップルの現在の時価保有額は1170億ドルに上り、買ってから3.3倍に上昇している。

バフェットが買った商社株は後追い投資してもいいか?バークシャーハサウェイの株主総会で販売された大株主のウォーレン・バフェット印の特注コカ・コーラ。
バフェットが株主として歓迎されているかがわかる(撮影:尾藤峰男)

ダメと判断すれば冷徹に売却するのがバフェット流

バフェットは、長く保有することを投資哲学とする投資家だが、ダメと判断すると、すべて売ってくる。最近では2016年に買った米国4大航空株をすべて大幅な損で手放した。また無断口座開設の不祥事を起こした長年保有のウェルズ・ファーゴも、3分の2の保有株をここにきて手放している。

バフェットが投資したということは、投資された側にとって、持続的な成長のための強大な追い風でありチャンスだといえよう。ここはバフェットの期待に応えるよう、投資された商社はただバフェットの投資を静観するだけではなく、最大限の経営努力や株主還元の強化を図るべきであろう。

(用語解説)
予想株価収益率(PER)
株価を1株当たり予想当期純利益で割った値。株価の割安・割高度を測る指標。

株価純資産倍率(PBR)
株価を1株当たり純資産で割った値。1株当たり純資産を解散価値とみて、株価がそれを下回る場合は割安とみる。

投下資本利益率(ROIC)
税引き後の営業利益を期初と期末の有利子負債と純資産の各々平均値の合計で割った値。投下資本が効率的に使われているかを示す指標。

バフェットが買った商社株は後追い投資してもいいか?

尾藤峰男
公認投資助言者(RIA)、びとうファイナンシャルサービス代表取締役
米国CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員、日本FP協会CFP®認定者、1級FP技能士
1973年埼玉県立熊谷高校卒。1978年早稲田大学法学部卒。日興証券に1999年まで21年在籍。投資アドバイスなど主要証券業務に携わる。英国、カナダ、オーストラリア(現地法人社長)の3カ国に勤務。2000年に当社を開業。金融機関から完全に独立した資産運用アドバイザーとして、個人の金融資産や退職金の運用助言・ライフプランニング・サービスを、商品の販売手数料によらずに、フィー(投資助言料)のみで提供している。グローバルな投資理論や外国株投資、国際分散投資への造詣が深い。著者に「いまこそ始めよう 外国株投資入門」「バフェットの非常識な株主総会」。日本経済新聞等に記事掲載、メディア登場多数。
投資助言・代理業登録(関東財務局)
びとうファイナンシャルサービスWebサイト http://www.bfsc.jp/