世界は全部つながっている
更科:ヨースタイン・ゴルデルのベストセラー『ソフィーの世界』も、哲学の歴史について、非常にわかりやすく整理されていています。
1961年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。東京大学総合研究博物館研究事業協力者、明治大学・立教大学兼任講師。『化石の分子生物学』(講談社現代新書)で、第29回講談社科学出版賞を受賞。著書に『宇宙からいかにヒトは生まれたか』『進化論はいかに進化したか』(ともに新潮選書)、『爆発的進化論』(新潮新書)、『絶滅の人類史』(NHK出版新書)、共訳書に『進化の教科書・第1~3巻』(講談社ブルーバックス)、新刊に『若い読者に贈る美しい生物学講義』(ダイヤモンド社)などがある。
ですが『ソフィーの世界』は、登場する哲学者が個別に紹介してあるだけで、哲学者同士のつながりや、思想の系譜が見えにくい気がします。「誰の影響を受けたのか」「どんな社会環境の影響を受けたのか」「誰に影響を与えたか」がわかりにくいのです。
一方で、出口先生の『哲学と宗教全史』は、哲学者一人ひとりを切り離していません。ひとりの哲学者をつまみ上げようとすると、まるで納豆の糸のように(笑)、ほかの哲学者やほかの思想までぞろぞろとくっついてくる感じがします(笑)。
出口:『ソフィーの世界』は、哲学者を一人ひとり分けて書いているので、よくできた百科事典といった印象ですよね。
更科:でも、出口先生の本は違います。たとえば、ヘーゲルをつまみ出そうとすると、ヘーゲル哲学に挑戦した3人の哲学者、キルケゴール、マルクス、ニーチェまでくっついてきて、この3人より少しあとに生まれたフロイトもくっついてくる。
一人ひとりを分離させず、社会情勢や背景にも目を向けながら、密接に、有機的に哲学者をつなげているので、『ソフィーの世界』とはずいぶん味わいが違うな、と思いました。
出口:僕は、「世界は全部つながっている」「人はひとりでは何もできない」と思っています。ですから、「Aさんは、こういう人」「Bさんは、こういう人」と個別に紹介して終わらせるのではなくて、AさんとBさんの関係性を書きたいと思いました。
物事は生々流転していて、どこか一ヵ所に留まっていたり、孤立して存在するわけではありませんからね。僕が自著に系譜図をたくさん入れているのも、そのほうが全体のつながりを把握しやすいからです。
更科:出口先生の本は図が多いので、図を描くのがお好きな方だと思っていました。
出口:僕の本に学術的な価値はまったくありませんが、系譜図だけはかなり苦心して自分で描いたのでそれなりの自信はあります(笑)。
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