その厚さは1メートルで、大蘇ダムはいわば巨大なプールとなる。結局、「どこから漏れているかわからない」(大泉所長の話)ので、全面補修せざるを得なくなったのである。総事業費は約126億円とされ、かかる工期も半端ではない。なにしろ、ダム湖の水を全て落として工事しなければならないのである。

 現在、ダムの水を部分的に利用しているが、水利用を停止して工事する場合でも7年、水利用を続けながらの場合は9年かかる。つまり、本来の計画通りの水利用が可能となるのは前者で2020年から、後者のケースでは2022年からとなる。当初の計画では供用開始は1986年からとなっており、大幅な遅延である。待ち疲れてしまった農家も多い。

 大蘇ダムは、熊本県産山村を流れる大蘇川(大野川の支流)をせき止めて造られた農業用ダムである。農水省九州農政局が「大野川上流農業水利事業」として1979年に事業着手した。計画上の有効貯水量は約390万トンだ。

 だが、火山灰地という地質上の悪条件から工事は難航を極め、2度にわたって計画変更された。事業費は当初の約130憶円から約596億円(追加工費を除く)にまで膨れ上がっている。

水利用を切望するのは主に隣の大分県
受益地が二県にまたがり事情が複雑化

 大蘇ダムの特異性は、受益地が2つの県にまたがっている点にもあった。大蘇川の源流は熊本県下にあるが、水はほどなく県境を超え、大分県内を流れ流れて別府湾に注ぎ込む。水利事業の総受益面積は約2158ヘクタールだが、熊本県側(阿蘇市と産山村)は527ヘクタールに過ぎず、残りの1631ヘクタ―ル(約76%)が大分県側(竹田市)となっている。

 つまりは、ダム本体は熊本県内に造られたが、水利用の中心はお隣の大分県側となっている。大分県竹田市の農家が、大蘇ダムの水利用を強く望んでいる。それにはこんな事情もあった。