『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
(こちらは2020年12月の記事を再掲載したものです)

独学の達人が教える「歴史を学んでもどうせ意味がないよね」への究極の答え【新年度におすすめの記事】Photo: Adobe Stock

【質問】
学校で歴史を学ぶ意味は何だと思われますか。

 私は現在大学で歴史学を専攻し、アルバイトで塾の講師をしているのですが、よく生徒に「歴史をやる意味がわからない」と言われます。「戦争のことを学ばなきゃいけないのはわかるけど、縄文時代とか意味なくない?」と。

 さらに、私の通う史学科の見知らぬ先輩が「縄文時代からやる意味はあんまりないよな」と話しているのを聞いてしまいました。

 私は生徒に歴史を学ぶ意味を訊かれたとき「今の自分たちの時代がどういう立ち位置なのか知るため」と答えていますが、我ながら抽象的すぎるなぁと思いますし、縄文時代から学ぶ意味を問われたら答えに詰まってしまいます。

 少し飛躍して、教科書を読むだけ、暗記教科としての歴史は学ぶ意味がないのかなと考えることもあります。

 某日本中世史の先生が「史料を慎重に見定め真実に辿り着こうとする歴史学の手法は、現代の情報社会を生き抜く上でのスキルに近い」と仰っていましたが、それは中高ではできない学びだよな……と思ってしまいました。

 読書猿先生は、学校で歴史を学ぶ意味は何だと思われますか。是非お聞かせください……(前置きがかなり長くなってしまいました。すみません)。

「くそったれな現在」から自由になるために

[読書猿の回答]
 私が考える《歴史を学ぶ理由》は「現在と過去との対話を続けていく間だけ、人は未来への希望を語ることができるから」です。

 ですが高校生には理解が難しいかもしれません。多くの高校生は2週間くらい先までしか未来を考える習慣がないし、1年程度の前のことすら「すごい昔」に思うからです。

 高校生をディスるかわりに、もう少し抽象的に言えば、歴史を無視する者は(大抵はくそったれな)現在に係留され続ける、というものになります。

 歴史を知らない者は、現在のありようがこれまでずっとこうだった/だからこれからもずっとこれ以外にはない、と無自覚に信じるしかない。現にある状態とは異なる可能性を知らなければ、現にあるのは違う未来を考えることもできません。

 実は、これは貧困の定義でもあります。貧困とはただ様々なリソースが欠乏していることをいうのでなく、そうした状態から抜けられないこと、そうした《現状》に永遠につなぎとめられることを言います。

 なお、私が定義している人文知の任務「人が忘れたこと(忘れたいこと、知らないままでいたいこと)を覚えておき、必要ならば掘り起こして、現にあるものとは異なる可能性があることを知らせること」は、上記のようなことから構想したものです。