競争の中で生きるすべての人へ──著者からのメッセージ

 僕はこれまで陸上競技短距離走、いわゆる「かけっこ」というスポーツに取り組んできた。

 普段は意識しないかもしれないが、スポーツはたくさんの要素が複雑に絡みあって構成されている。

 勝ち負けの他にも、人間関係、目標、夢、メンタル、師弟……。スポーツとは、勝敗や記録だけのものではなく、本当はもっと多面的なものなのだ。

 僕自身、スポーツという世界を通して、さまざまなことを深く体験し、そこでたくさんの感情や哲学さえも学んだし、今ももちろん学んでいる。そして、そういったことを誰か別の人間に伝えたり、ちびっ子たちに「夢とは何か?」と話す機会も増えてきた。

 僕はこれまで、走ることでしか自分という人間を表現してこなかったが、走る以外のかたちで、何かを表現し、伝える機会が自然と出てきた。

 そんな時に、今回、「本」を通して僕のことを伝える機会をいただいた。

 なんだか最初は照れくさかった。だけど、僕が過酷な競争の世界でもがきながら考えてきたことが、アスリートに限らず、いま苦しい境遇にある人や、これから競争の世界に出ていこうとしている人たちに、少しでも役に立てばと思って、引き受けさせていただいた。

 そして、この本は、あくまでも僕自身の体験を軸にして書き進めた。

 できるだけ「現実」を描こうと心がけたので、決して明るい話だけではありません。

 ただ、それも書いていくうちに何だか楽しくなってきて、書きながら誰かと話をしているような気持ちになりました。だから、気負わずに読んでみてくださいね。

本書の内容

『自由。 世界一過酷な競争の果てにたどり着いた哲学』『自由。 世界一過酷な競争の果てにたどり着いた哲学』
末續慎吾著
定価(本体1400円+税)
ダイヤモンド社

世界陸上とオリンピックの陸上短距離種目で、日本人初のメダルを獲得。
しかし、誰よりも「勝利」と「記録」にこだわり続けた日本陸上界最速のスプリンターは、ある日突然走れなくなった──
長期にわたる休養を経て、競技場に戻ってきた著者が語る「競争の哲学」。

勝利や記録だけが、競争に参加することの価値ではない。
”勝とうが負けようが自分に対して誠実であれば、そもそも勝ち負けに支配されることなんてなくなる”

競争の世界に生きるすべての人におくる脱・勝利至上主義の生き方、考え方

◾️目次

はじめに 勝利至上主義のその先の話

第1章 「勝ち負け」の話
・勝つだけって本当に正しいこと?
・こじらせアスリート ──「勝ち負け」からの自由
・レジェンド・オブ・マスター ──熟練者の勝負観
・本番を最大限楽しむためには?
・是、勝者の条件也 ──「自分より強い相手」に挑む条件
・かけっこの世界──苦しみの先のあったもの

第2章 「夢」の話
・本気で挑戦するということ
・真剣な僕 ──突然、目標が消えてしまった時
・コロナクライシス ──真剣の意味
・新・根性論 ──根性とプライドの正しい持ち方
・メダルの対価 ──プロとアマの違いの話(上)
・1000円 ──プロとアマの違いの話(下)
・メダリストは一日にして成らず

第3章 「人間関係」の話
・「良い」指導者の条件
・上下関係と並行関係 ──指導者の位置関係
・パワハラシンキング
・究極の信頼関係
・知らない関係は大人の嗜み ──主観と客観のバランス

第4章 「個性」の話
・「個性が無いんです(涙)」──個性の見つけ方
・走らずして、走るのだ。──「極める」とは?
・スポーツの嗜み ──スポーツをやる意味ってなんですか?
・「理想の自分」は変化していく
・コロナコセイ ──今の時代を少しラクに生きる考え方
・流されちゃいましょう

おわりに