戦う市場は
大きすぎても小さすぎてもダメ

 私は考えた。
 ブルーオーシャンを継続するにはどうしたらいいか。あるいは第2のブル
ーオーシャン市場を見つけるか。ブルーオーシャン市場を拡張するのか。
 いきなり見知らぬ海に船出したら負けてしまうだろう。
 三井物産時代のベンチャー企業経営の9年間で、それは骨身にしみていた。

 隙間市場で成功したからといって、少しでも競争の激しい大市場に出るとだいたい負ける。私はこれを何度も経験し、痛い目に遭ってきた。

 中国語ワープロで成功したが、それは競争の激しい日本市場やアメリカ市場で戦うことをあきらめたからだ。そして、中国市場での成功の勢いのまま、アメリカでパソコンの製造販売をしたら大敗。1万台売っただけで撤退した。

 小さな文字が打てる特殊プリンタで成功した後、一般向け低価格プリンタでは5億円のテレビCMを打っても大敗北した。価格が大手メーカーの2分の1のレーザープリンタで初年度はかなり売れたが、1年後に大手がそのまた半値でプリンタを発売した。

 汎用品市場で規模が大きすぎたのだ。
 大手メーカーが本気で参入してきてコテンパンにされた。やはり大企業と競争してはいけない。わかっていたはずなのに、人間とは懲りないものでやってしまう。
 かといって隙間市場は地味だから面白くない。それで少し真ん中に行こうとするとたいてい負けた。ワークマンも隙間市場でダントツ1位を取ってきたので、同じパターンでしか勝てないだろう。

ワークマンの「還暦CIO」が常に20年先を見ている理由

 だからといってあまりにニッチすぎても行きづまる。
 三井物産時代、スポーツ分野でフォームの画像解析装置を開発した。当初は売れたが、市場が小さすぎて尻すぼみになった。強力な直販の販売部隊を育てていたので、製品をつくればなんでも売れたが、市場が小さすぎて経営上のメリットがなかった。

 大きな市場は競争が激しい(リスク大)が、成功のインパクトは大きい(リターン大)。
 小さな隙間市場は入りやすい(リスク小)が、経営上のインパクトは小さい(リターン小)。

 自社の経営規模や強みを考えながら市場規模を選ぶ必要がある。大きすぎても、小さすぎてもうまくいかない。
 一体全体、ワークマンはこれからどうしたらいいのか。

「何もしなくていい」日々の課題は決まった。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。