バイデン次期米大統領は、「経済格差の是正」を目指す。ただ、その実現に必要な税制変更などは議会の承認が必要だ。民主党は下院では多数を維持するものの、上院では多数を確保できない見通しだ。民主党内の左派の存在や保守派が多数を占める連邦裁判所も実現への障害となる。議会の承認を経ることなく行使できる大統領令などを通じて、政策の実現を目指すことになるが、その道のりは平たんなものではない。(石原哲夫 みずほ証券金融市場調査部USマクロストラテジスト)
下院は“史上最少の多数派”の民主党
党内左派も抱え“ダブルねじれ議会”
2020年11月16日、バイデン次期米大統領は、4名のCEO(最高経営責任者)と5名の労働組合のリーダーとビデオ会議をしたあと、新政権の経済プランの骨子を発表した。
主な内容は以下の通り。
(1)現金給付、失業保険、中小企業支援、州政府支援の拡充などが含まれた3兆ドルの景気刺激策
(2)電気自動車と充電ステーションの拡充、0.3兆ドルのハイテク産業投資
(3)道路、橋、ビルなどを含む米国内インフラの近代化
(4)150万戸の低中所得者向け住居の建設
(5)有給病気休暇、有給介護休暇の企業への義務化
(6)15ドルの最低賃金、労働組合活動の支持
(7)富裕層や企業の税負担を増やす「フェアな税制」
いずれも有権者に極めて人気のある政策とされているが、少なくとも(1)、(3)、(7)を実現するためには、法案を議会で通過させなければならない。ほかの政策にも一部議会の協力が必要になるものがありそうだ。
(5)、(6)は「経済格差の是正」、「ワーキングクラスを守る」というバイデン氏の公約に沿ったもの。大統領選挙期間中、バイデン陣営が最も重視した地域はワーキングクラスの多い「ラストベルト」であった。米中西部五大湖周辺の石炭、鉄鋼、自動車といった旧来の産業の衰退が進む地域だ。
経済政策の多くは議会の承認が必要になるが、バイデン政権誕生時の民主党は下院では「米近代史上最少の多数派」になり、上院では少数派になると見込まれている。また、民主党が獲得した下院222議席中、95前後は民主党内の左派(プログレッシブ派)が占める。いわば“ダブルねじれ議会”と言えるだろう。
対する共和党上院トップのマコネル院内総務は22年の中間選挙で議席数を伸ばすことに注力するとみられるため、超党派ムードは醸成されにくい。「マコネル氏の基本姿勢はオバマ政権誕生後と同じ、妨害、妨害、妨害」(政治アナリスト)である。