コロナ禍を経て、観光業が今後目指すべき道とは? 半世紀以上前に松下幸之助氏が国際観光の意義を唱えるなど、日本において「観光立国」政策はどのような変遷をたどってきたのか、また、今からわれわれが目指すべき「観光立国」の姿とはどのようなものか、星野リゾート代表・星野佳路さんと考えていきます。(構成/斎藤哲也)
コロナにかかわらず
現在の延長に「観光立国」はない
訪日外国人客数は2011年から19年まで、爆買いなどとともに順調に増加し、年間で3000万人を超えるまでになりました。
ところが20年のコロナ禍によって、日本の観光産業は大きなダメージを受けています。観光産業に携わる大勢の人が、観光の未来に大きな危機感を抱いていることでしょう。
そんな時期だからこそ、あらためて自分たちの足場を問い直し、観光が現代社会にとってどのような意味を持っているのかを省察する必要があります。というのも私自身は、コロナ禍以前から、現在の旅行業や観光産業の延長線上では、真の「観光立国」は実現しないと考えていたからです。
その理由はこの連載を通じて明らかにしていきたいと思いますが、今回は「観光立国」の本当の意味についてお話しすることにしましょう。
まず、政府が「観光立国」をキーワードに掲げたのは、2000年代初頭の小泉内閣の時代です。03年には観光立国懇談会が、翌04年にはその発展形である観光立国推進戦略会議が設置され、観光立国についての議論が本格的に始まりました。私もワーキンググループのメンバーとして参加しました。
その一つの成果が、06年に成立した「観光立国推進基本法」です。同法には、観光産業の重要な役割として、地域社会の持続可能な発展を実現することが記されています。背景には、人口減少や製造業の海外移転によって、地方経済が停滞期に入ってしまったことがありました。雇用を維持し、地域社会の新しい経済基盤の一翼を担うべく、「観光」が国の重要な政策として位置付けられたわけです。
法律うんぬんを抜きにしても、「観光」が地域経済の命綱になっていることは、すでに多くの人が実感しているところでしょう。その重要性は人口減少に伴い、今後ますます高まっていくことは言うまでもありません。ところが、訪日外国人客の人数は増えてきましたが、その成果は本来の「観光立国」の狙いから少し外れてきているようにも感じています。
そこで、改めて二つの重要な視点から「観光」を捉え直してみたい。
一つは、「観光は日本人にとってどんな意義があるのか」、そして「海外から日本に観光に来てもらうことにどんな意義があるのか」という点です。