“NO”とは言わない精神で
マグロ用ポイを作ったことも

 杉本社長は自社のポイの技術についてこう解説する。

「ポイは和紙の強度が最も大切。その和紙にも種類がありますが、強度の目安として、たとえば一番紙が薄い7号は1円玉13枚乗せると破れ、紙が厚い4号は1円玉51枚で破れるようになっています。和紙は紙専門店さんから取り寄せており、強度を保つために数年寝かせて作られています。また、安物のポイだと円形の枠に和紙がズレた状態で貼られていますが、あれも強度に影響が出てしまうため注意が必要。毎年、奈良県大和郡山市では『全国金魚すくい選手権大会』が開催されており、そこにうちもポイを提供していますが、参加者たちはポイの出来にシビアなのでしっかり検品しています。私もこっそり大会を見に行っては、参加者たちが今年の和紙の出来がどうだと話しているのに聞き耳を立てて、品質改良に努めています」

 その職人気質な仕事への姿勢も同社の成長を後押ししてきた原動力の一つだ。

「父親である先代の時代からそうですが、うちは基本的に“NO”とは言わないスタンスでやっています。突然全く知らない人が『こんなことできますか?』と来た場合でも、すぐに断ったりせず、まずはいったん技術的に可能かどうかを考える。どうにか作れる方法を探して、その次に仕事を受けるかどうかを判断します。たとえば、以前あるテレビ局からの依頼で、マグロ釣り用の巨大なポイを作ったこともあります。他にシャネル、電通、日清食品など、異業種の大手企業とさまざまなコラボ企画を行ってきました。職人としてのプライドもそうですが、いろんな世界の人と仕事をするのは楽しいですからね」

 また、人材育成にも独自の哲学を持っている。

「かつて先代がまだ現役だった頃、いろんなことを教わりましたが、親子ということもあってもめることもありました。そういう経験をしているため、今は若い下請け事業者さんに対しても、とにかく仕事を任せるようにしています。外注さんにそこまでする必要があるのかと思われそうですが、重要な仕事を振って責任感を持たせることは大事。その代わり、何かあったら全ての責任は私がとります。仮にクレームが出て返品になっても、もちろん、その費用も全てうちがかぶる。そしてその若者がある程度仕事を覚えてきたら、うちを通さず直で元請け事業者さんと取引するように伝えることも。そうやって人は一人前になっていくのです」