示談が成立すれば、法的に事件は存在しないことになる。警察としては巡査を処分する理由がなくなり、記者発表する必要もない。

 記事にもできなかった。苦い思い出だが、当時の筆者には記事化するために必要な「5W1H」を詰め切る能力も、デスクを納得させられる能力もなかった。事件は闇に葬られた。

 その後、巡査は同様の事件を起こして依願退職した。

 さらに自転車の女子高生を茂みに引きずり込んで体を触ったとして強制わいせつ容疑で現行犯逮捕されたが、警察は「個人的な理由で退職したが、元警察官がこのような事件を起こしたことは遺憾」というしらじらしいコメントを出していた。

 筆者は「あのとき、記事にできていれば…」と思い、とても悔しかった。

警察OBが語る裏金の作り方

 その後、筆者は多少の経験を積んで、ほかの大きな総局で県警キャップを任された際、ある警察OBからいろいろな話を聞くことがあった。

 そのとき、警察の「裏金の捻出方法」も知った。

 OB氏に聞いた手口だが、架空の人物をでっち上げ、「捜査協力費」の名目で謝礼を支出したように偽装。捻出した裏金は通常、職場のナンバー2(本部であれば各課の次長、署であれば副署長)が管理していた。

 領収書が切れない現場の捜査費用にも使われたが、ほとんどが幹部の私的飲食代などに使われたという。後に明らかになる全国的な手口と一緒だった。

 余談だが、OB氏によると、やたら上司の受けがいい同期がいて「7色の筆跡を持つ男」の異名を取っていた。書道家のような達筆な文字、女性のような丸文字、判読できないような悪筆…。頼まれればどんな筆跡でも書き分けられた。領収書を偽造するには便利な人物だったというわけだ。

 A氏が語った元巡査の事件は表沙汰にならなかったが、A氏やOB氏の裏金を巡る話は信憑(しんぴょう)性があったし、事実だったに違いない。20年ぐらい前までは、警察は万引きや交通違反など些細(ささい)な不祥事でもキャッチした記者を脅したり、「ほかのいい事件を教えるから」とバーターを持ち掛けたりしていた時代でもあった(※注・実際に筆者は経験してきた)。

 ただ、誤解のないように申し添えると、現在は不正が隠し通せる時代ではなく、警察官の不祥事についても当然のように発表されるようになった。今はこうした事案はないと思う。

提示要請には応じるのが無難

 この記事を読んで「免許証の提示は危険なのでは」と感じられた方もいると思うが、実は警察官に提示を求められても、ほぼ拒否はできない。

「ほぼ」というのは、道路交通法67条は「警察官は運転手が違反、人の死傷もしくは物の損壊を起こした場合、(中略)運転免許証の提示を求めることができる」と規定。同95条は「警察官から提示を求められたときは、提示しなければならない」としている。