また、上司が部下のキャリア・アンカーを把握する際にも、一度聞いた結果をもとに「この人の価値観はこれ」と決めつけないよう意識する必要があります。キャリア・アンカーの診断結果は過去の経験から導き出されたものであり、経験を積み重ねることで変化していく可能性が十分にあります。「知ったつもり」になってレッテルを貼るのではなく、「今、どうなのか」を把握する努力を怠らないようにしましょう。

コロナ禍でゆらぐ価値観を
キャリア・アンカーでもう一度確かめる

 キャリア・アンカーは部下のキャリアマネジメントに活用できるのと同時に、上司自身が自分のキャリアと向き合うためのツールでもあります。管理職にもなると会社や業界である程度の経験を積んできてスキルも身についていますが、今後のキャリアに関する考えがゆらぎやすい時でもあります。

 社会の変動が大きいコロナ禍では、上司、部下の立場を問わず、これまでよりも「保障・安定」や「自律・独立」へと価値観の比重が傾いた人が多いのではないでしょうか。一方で、そういった外部環境の変化に流されるのではなく、自分自身のベースとなる価値観をいま一度確かめるべきです。結果として以前と何も変わらなかったとしても、自分の価値観がどこにあるのか、自分の中で納得させることが大切なのです。

 上司が部下のキャリア・アンカーを把握するだけでなく、上司のキャリア・アンカーを部下と共有して話し合いをしてみるのも、信頼関係の向上のひとつのきっかけになります。部下から見た自分と、自分が思う自分の価値観の「差」を検証してみることで、お互いが何に重きを置いて仕事をしているのかクリアに見え、視界の共有をすることで、よりスムーズに価値共有ができるようになります。

 また、時には上司が迷う姿を部下に見せるのも良いのではないかと私は思っています。今はたまたま上司と部下という関係なだけで、本来は一人の人間同士です。キャリア開発における悩みを部下と共有しながら、歩みを合わせて進んでいくこともこれからの時代には必要です。自身と互いの価値観を正しく理解し、充実したキャリアを形成していくために、キャリア・アンカーを活用していきましょう。

(グロービス講師 鳥潟幸志、構成/伊藤宏子)