ハードはコモディティ化
UXで差別化する時代に

 このように高い技術力で先行してきた日本の自動車メーカーも10年代に入ると、競争力に陰りが見え始める。自動車業界を取り巻く構造変化が起き、これまでのハードを中心とした技術力での差別化が難しくなってきたからだ。中西氏は、日本の自動車メーカーの競争力が平凡になってきた要因として、2つ挙げている。

「まず自動車のハード部分がコモディティ化し、性能差がなくなってきたこと。もう1つは、自動車自体がユーザーエクスペリエンス(UX)などソフトで差別化する時代になってきたことだ」

 ハード部分がコモディティ化しつつあることで、日本のモノづくりを支えた系列は解体へと向かっている。国内の自動車メーカーは競争激化もあって合従連衡が進み、現在はトヨタ自動車系、日産自動車系、ホンダ系の主要3グループに再編されているが、電気自動車の普及で新規メーカーの参入も起きており、今後、自動車メーカーと部品メーカーの関係は水平統合型へシフトすると考えられる。

 また、ハード面で差がつきづらくなる中で重要になるのが、ソフト面での差別化だ。しかし、コネクティビティや電動化で先行するフォルクスワーゲンやBMWをはじめとした欧州勢に、日本の自動車メーカーは後れを取っている。

「今後、自動車メーカーは単に車を作ってもうけるだけではなく、暮らしを支えるUXを提供していくことが重要になる。そして、一連の移動サービスを提供するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)のプラットフォーマーにならなければならない」(中西氏)

 つまり、自動車をつくる会社から移動サービスの提供会社への変革を求められているのだ。

地球の未来を変える
仕事ができる可能性も

 これはフィーチャーフォンからスマートフォンへと移行した携帯電話に見られた変化と似ているが、中西氏は「携帯電話のように短期間で移行はせず、時間をかけてデジタル革命が進むだろう」と語る。なぜなら、自動車には安全性の担保が必要で、ハード面でのモノづくりの重要性は変わらないからだ。

 そのため急激にハード中心のモノづくりが縮小していくわけではないが、ソフトを素早く開発して改良を加えていくアジャイル開発が重要になっていくのは確か。さらに、環境規制が厳しくなる中で、循環型社会の実現のためのエコカー開発も求められている。これから新卒で入社すれば、自動車業界の大きな変化を体験するだろう。

「現在、自動車産業自体はほぼピークに来ているが、資源を枯渇させず人類が生き残るためにはイノベーションが必要で、また自動車メーカーがMaaSを含む社会変革を支える産業になるのは間違いない。これから求められているのは、地球の未来を変える、といった気持ちを持った人材だ」(中西氏)