山本CEOに昨夏に提案済み
電通改革に必要な4項目とは

 僕は『サンデー毎日』2020年7月26日号に「『電通』化する日本 巨大広告代理店は なぜ迷走したか」と題して寄稿しています。

 拙稿及び関連資料を含む『「電通」化する日本 巨大広告代理店は なぜ迷走したか』まとめサイト(https://tanakayasuo.me/dentsu/

「日本最大の広告代理店、電通に厳しい批判の目が向けられている。2015年には社員の過労自殺があり、いま給付金委託『中抜き』問題で国策企業と指弾されているのだ。電通の迷走ぶりは、空洞化する日本の産業構造、劣悪化する日本の労働環境の縮図だと看破(かんぱ)する異能作家が、友人でもある山本敏博電通グループ社長に峻烈(しゅんれつ)な直言(ちょくげん)を呈(てい)しつつ、問題の核心を明らかにする――」

 担当編集者M氏が記した「簡にして要を得た」リード文に続いて僕は冒頭で、2017年1月19日に当時の(株)電通取締役会で抜擢された時点では、その取締役会の構成員ですらなかった“次代のホープ”が社内外に発したコメント「最優先の課題は、労働環境の改革であると認識しています」を引用しました。

 その4日後の2017年1月23日に社長執行役員に就任した畏友・山本敏博氏の決意表明は以下の如く続きます。「強い決意のもと、社員と共に改善施策を着実に遂行してまいります。経営の健全性や透明性の確保を図るガバナンス体制を強化すると同時に、当社の企業価値の源泉を見つめ直して、新しい電通の創造に向けて、全社を挙げて取り組んでまいります」

『サンデー毎日』発売直後の昨年7月21日、山本敏博(株)電通グループ代表取締役兼CEOから求められて2人で面談した際、僕は4項目のメモ書き『(1)「殖民地化」の阻止(2)「電通」労働環境のプロトタイプ化(3)電通イージス・ネットワークの可視化(4)HP JP上でガバナンスを明確化』を手渡しました。

(1)「殖民地化」の阻止
「広告業界」に疎い読者諸氏でも、1970年代半ばに耳目を集めた博報堂の醜聞をご記憶かも知れません。「教育雑誌」の広告取次店として1895年=明治28年に事業を興した博報堂創業家のお家騒動に端を発し、社長経験者を含む4名が特別背任罪で逮捕された事件です。相前後して、何れも旧大蔵省出身の2人の人物が社長、会長として君臨する進駐軍統治が、1975年から2000年まで四半世紀にも亘って続きました。「監督官庁」総務省や厚生労働省からの常勤取締役、社外取締役等の受け入れに伴う社内外の士気への影響に、「トップ・リーダー」はセンシティブであるべきなのです。

(2)「電通」労働環境のプロトタイプ化
 日本の産業界は、実態と乖離した政治や行政が掲げる「働き方改革」に翻弄され続けています。9時-5時勤務が夢物語な「業界」の雄たればこそ電通は、職務給・職能給の枠組みを超えて「超過労働時間を最大5年有効のポイントに換算」するヴァカンス発想を始め、人間の相貌(かお)と体温が感じられる現場の実態に即した「労働環境」の範を垂れ、延(ひ)いては他業種にも伝播するプロトタイプとしての存在を目指すべき。それは、彼が取締役会の構成員ではなかった2016年11月にも口頭と書面で伝えていた具体的提言です。

「田中康夫の新ニッポン論」Vol.42「職務給・職能給」
https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2016/11/verdad42.pdf

(3)電通イージス・ネットワークの可視化、そして(4)日本語版HP上でのガバナンスを明確化

 この2項目に関して僕は、持参したノート・パソコンを開いて具体的に、(株)電通グループ代表取締役社長兼CEOに指摘しました。

 純粋持株会社の電通グループ、国内事業会社の電通、海外事業会社の電通イージス・ネットワーク、更に電通グループの社内カンパニーとして電通を中核に日本国内の約130社で構成される電通ジャパンネットワーク。4つの異なるURLのホームページは、ユーザー・オリエンテッドな「ワンストップサーヴィス」とは凡そ真逆な「縦割り行政」に陥ったグローバル・カンパニーDENTSUの病巣を体現していませんかと。

 広告、そして経営、その何れの領域に於いても「プロフェッショナル」の足元にも及ばぬ僕の4項目の提言は、都合8カ月の歳月を経た2月17日現在も、「反映」されているとは言い難い状況です。

 僕の「懸念」は筋違いだったのか否か、「ダイヤモンド・オンライン」読者の皆さんの忌憚なき判断を仰ぎたいと思います。