厚労大臣に委ねられた
「重い責任」の中身

 2013年8月から2015年にかけて、当時の厚労大臣だった田村憲久氏の裁量によって、生活保護費の生活費分(生活扶助)の引き下げが3段階に分けて実施された。引き下げ幅は平均6.5%、最大10%に及び、多人数世帯や子どものいる世帯で大きくなる傾向があった。

 現在の厚労大臣は奇しくも、当時と同じ田村氏である。水面下で「コロナ禍で深刻化する子どもの貧困に真摯な関心を寄せ、何とかしなくてはならないと考えている」と伝えられる田村厚労相は、2013年に自らが引き下げた生活保護基準の影響、特に生活保護世帯の子どもたちに及ぼした影響を、おそらく充分に承知しているはずだ。

 そして田村厚労相は、自らの責任において、2021年度の生活保護基準を2013年度初めと同レベルに戻すことができる。

 生活保護においては、保護費を若干増額したり、制度を利用しやすくしたりするための若干の改定を行うことが、数百億円から数千億円単位の国庫支出増加につながり得る。1人や1世帯に対しては若干の改善であっても、制度利用者が100万人単位で存在するからだ。

 しかし厚労大臣は、そのような重大な判断を、国会での審査や可決を受けずに行うことができる。国民の生命や生活を守るために必要であれば、実施するしかないからだ。

 たとえば1973年は、石油危機による激しいインフレが持続し、「狂乱物価」と呼ばれた。この年、生活保護基準は2回にわたって増額改定された。そうしなくては、生活保護で暮らす人々の生命や生活を守ることができないため、厚労大臣の責任において改定が告示され、実施されたのである。2013年8月から実施された生活保護基準引き下げとは、対照的である。

 もしも田村厚労相が、保護費を2013年度初めと同等に戻し、減額された保護費7年8カ月分を当事者らに返還すれば、生活保護で暮らす直接の当事者たち200万人以上の多くは、将来にわたって田村氏に悪い感情を抱かないのではないだろうか。その決断を自民党が支えれば、自民党に対する“国民感情“が大きく変わる可能性もある。もちろん、生活保護世帯の暮らしは、子どもを含めて向上する。