厚生労働省『平成30年人口動態調査』によると、自宅での死亡率は13.70%。10年間で微増とはなっているものの、まだ8割強の人が病院で亡くなっていることが分かる。そんな中、住み慣れた家で最期を過ごしたいと希望する人もいる。在宅医療専門医の中村明澄氏は、年間100人以上の看取りに10年もの間立ち会ってきた。生き方に正解がないように、死に方、つまり「逝き方」にも正解はない。中村氏の著書『「在宅死」という選択――納得できる最期のために』から「在宅死」の実例を紹介する。
「ずっとそばにいたいから」
最期に見えた、夫婦の強い絆
E絵さんの病気が見つかったのは、50代半ばのころ。病気の進行はゆっくりですが、おなかのなかにゼリー状の塊がどんどん増えてしまう特殊ながんでした。その塊のためにお腹がぱんぱんで食事を普通にすると腸閉塞を起こしてしまうため、栄養のほとんどを点滴で補っていました。
E絵さんはとても寡黙な方で、私としては、「ご自分の病状をちゃんと理解されているのかな?」「今後のことをどう考えているのかな?」と心配で、いろいろ話しかけてみるものの、いつも穏やかに「大丈夫です」と決まってそうおっしゃいます。たまにお目にかかるご主人もまた、「うん、分かってるから大丈夫だよ」とおっしゃいます。「あまり関わってほしくないのかな」と思ってしまう距離感さえ感じるおふたりでした。