レガシーシステムが抱える課題に
注目が集まりすぎた「DXレポート」
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長
1997年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、通商産業省(現 経済産業省)に入省。 2000年以降内閣官房、経済産業省、IPA等において、サイバーセキュリティ政策、IT政策に長年従事。 2017年よりIPA産業サイバーセキュリティセンターの立上げ・運営を陣頭指揮。 このほか、米国コロンビア大学院への留学、JETROデュッセルドルフ、在オーストラリア日本大使館への赴任等、幅広い海外経験を経て、2020年より現職。米国公認会計士。
DXレポート2では、最初のレポート以降、日本企業の中でDXについて「『レガシーシステムさえ刷新すればいい』といった本質的ではない解釈が生まれてしまった」「現時点で競争優位性が確保できていれば、これ以上のDXは不要と受け止められてしまった」と分析。全社的に危機感を共有し、意識を変えてDXに取り組む一部の先行企業と平均的な企業との間で、DXの進み方が二極化してしまったとしている。
田辺氏は「DXレポートが初めて出た2018年は、DXといえば『デラックス』の方がまだまだ一般的だった頃。当時は、新しいツールを導入するというよりは、レガシーシステムの維持面でコストが大きくなっていくことが予想されていた。そこでこの課題を『2025年の崖』という言葉で示し、まずはレガシーシステム維持のコストを下げて競争力のある投資に振り向けることをDXの一歩目とした」と振り返る。
当時、強く問題視されていたのは、2025年に向けて団塊世代の人材が大量に退職し、システム維持・保守ができる人材の不足が予測されること、昭和100年に当たる同年、昭和時代から使われているシステムが3桁年の計算に対応できない可能性、大手システムベンダーの各種システムがサポート終了を迎えることなどであった。こうした課題が克服できない場合は、DX実現はおろか、2025年以降、最大年間12兆円の経済損失が生じる可能性も、DXレポートでは指摘されていた。
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「2025年の崖という言葉がバズったことの裏返しとして、DXに幅広い解釈を生んでしまった。レガシーシステムを刷新すればDX、コスト削減により利ざやが増えて単価が下げられれば、結果的に競争力が上がるからDX、という解釈をする人も多かった」(田辺氏)
そして田辺氏は「正しいDXは、かなり真面目に取り組まなければ実現しない」と語り、こう続ける
「DX推進にあたっては、現場の抵抗もあるだろうし、社内の納得が得られないと『今までのやり方ではなぜダメなのか』ということも当然あるだろう。そうした納得感も含めて、いろいろなことを乗り越えなければならないのがDXだ。それを面倒くさいと思うと、『世の中でDXがはやっているみたいだから、何か(実現できるツールを)買ってきてよ』といった話になってしまう。そうして『じゃあRPAツールを導入するか』などと、それっぽい対応で済ませてしまった企業も結構あるのではないか」(田辺氏)
2020年に公開されたDXレポート2では、「ITシステムの刷新のみならず、企業文化を変革することが、DXの本質」としている。
「最初のレポートでも、企業文化や商習慣のやり方も変えてDXを推進していくんだというメッセージは伝えていたつもりではあったが、もう少しはっきり提示した方がよかったのかもしれない。ただ、いろいろな要素がある中で、レガシーシステムの抱える課題を(当時は)強調する必要があった。結果として、(DXの全体像を)真面目にとらえて対応した企業と、手っ取り早く何かないかという対応になった企業とに分かれたのではないか」(田辺氏)