ヒートショックと熱中症による
転倒や溺水に注意

 早坂氏は、「風呂場は体にとって危険な状態がいくつも重なっている場所であることを肝に銘じるべきです」と語る。

「たとえば暖かい部屋から寒い脱衣所や風呂場に入ると、体は体温を逃さないために血管が縮み血圧が急上昇します。その後浴槽に入ると、熱いお湯に反応して血圧は再度、急上昇する。体が温まってくると、今度は温熱作用で血管が広がり、血圧が下がります。次に、浴槽から出て寒い脱衣所でまた急激に血圧が上がる。こうした血圧の急変動が心臓に負担を与え、心筋梗塞や脳卒中などの症状を引き起こしてしまうんです。これらの症状を我々は『ヒートショック』と呼んでいます」

 温熱作用で温まった状態で急に浴槽から立ち上がると、足の血管が広がっているため血液が下半身に下がってしまう。すると血液が脳まで行き渡るのに時間がかかり、ふらついたり倒れたりしてしまうこともあるので注意が必要だ。

 またヒートショックと同じくらい恐ろしいのが、熱中症だ。これは、湯船に長く浸かることで体温が上がりすぎてしまい、意識障害や重度の脱水症状を引き起こしてしまうもの。最悪の場合、昏睡(こんすい)状態で亡くなってしまうこともある。

「熱中症の症状で診察を受けた人の話を聞くと、湯船の中でぼんやりしてきて『眠くなってくる』と言います。まぶたが重くなるようなら、一刻も早く湯船から出てください。鼻と口が2~3分間も水に浸かってしまうと、命の危険があります」

 ヒートショックや熱中症は、どちらも意識を失ってしまい、いつの間にか溺死や溺水状態になる危険性があるのだ。

 厚生労働省の人口動態統計によると、2019年に「不慮の溺死及び溺水」で死亡したのは5166人。一番安全なはずの家の中に事故の危険性が潜んでいる事実は自覚しておいた方がいい。

 また、「若い人ほど、風呂場の事故は高齢者の事故だと考えがちですが、そうではありません」と早坂氏は指摘する。

「65歳以下の人たちでも、『つい浴槽で寝てしまった』とか『洗い場で滑ってけがをしてしまった』といった経験を持つ人が結構います。洗い場と浴室との段差でつまずく、湯船に入る際に片足を上げた状態でバランスを崩す、湯船から立ち上がるときに一瞬意識を失う、などという事例も多い。実はこうしたケースは年齢や性別には関係なく、疲れていたら誰にでも起こり得ます。笑いながら話せるうちに、対策をするのが賢明です」