医薬品業界でダントツに高い
生産性が生まれている理由
それを理解するには、全国に薄く広がっている数多くのクリニックの特性を理解しなければなりません。彼らの最大の悩みは、薬や治療に関する最新情報を手に入れにくいということにあります。医療現場で日々の臨床医療をこなしているだけでは最新の治療情報を得ることができず、また、地域的にも分散しているので同業者間での情報共有も難しいという特性があるのです。
大病院中心の内科とは違って、情報弱者になりやすいという特性を持った眼科医に対して支店網を張り巡らせ、単に薬の最新情報にとどまらないレベルの支援をすることで、参天製薬は国内医療用眼科薬の約50%というシェアを築くに至りました。これだけでも高い数字ですが、医師のマインドシェアは7割近くあると言います。参天の眼科領域の製品は50品目以上あるので、参天製品がなければ眼科医は事実上診療ができないのです。
眼科医というセグメントをここまで徹底的に押さえてしまうと、おもしろい現象が起こってきます。海外製薬企業がいかに素晴らしい製品を開発したとしても、日本でその眼科薬を販売しようと思ったら、否が応でも参天製薬に頼まざるを得ない状況が出現しているのです。
仮に他社が参天の持続的な高利益水準を羨ましく思ったとしても、眼科医という小さなマーケットにすでにこれだけコストをふんだんに投下している参天製薬にいまさら対抗することは難しく、容易に参入できません。3.3億円という、医薬品業界でもダントツに高いMR一人当たりの売上水準は、「呆れるほどのコストをかけているからこそ、ダントツに高い生産性が生まれている」という逆説に拠って立っているのです。
(本原稿は『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』の内容を抜粋・編集したものです)