楠木建 一橋大学教授「経営の王道がある。上場企業経営者にぜひ読んでもらいたい一冊だ」と絶賛、青井浩 丸井グループ社長「頁をめくりながらしきりと頷いたり、思わず膝を打ったりしました」と激賞。経営者界隈で今、にわかに話題になっているのが『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』だ。
著者はアンダーセン・コンサルタント(現アクセンチュア)やコーポレート・ディレクションなど約20年にわたって経営コンサルタントを務めたのち、投資業界に転身し「みさき投資」を創業した中神康議氏。経営にも携わる「働く株主®」だからこそ語れる独自の経営理論が満載だ。特別に本書の一部を公開する。

「新聞配達店」と同規模! 大塚商会が「呆れるほどのコスト」で支店網を拡充させた理由Photo: Adobe Stock

採算がとりづらい「中小企業のIT」市場で
利益を上げるにはどうしたらいいか

 呆れるほどのコストをかけて障壁を構築した事例の一つが大塚商会です。大塚商会は企業、特に中小企業を顧客に、コンピューターや複合機、通信機器などの幅広いIT製品の販売を行ったり、システム・インテグレーション・サービスの提供やシステムの保守、さらには事務サプライ供給などを行ったりしています。

 中小企業という市場は、顧客となる会社の数こそ多いのですが、営業やサービスなどで手間暇がかかる割には顧客当たりの売上規模が小さい、という特性があります。そのため、各地域に小さなローカルプレイヤーが分散して存在し、そういったプレイヤーがこまめに顧客に出向き、ほそぼそと御用聞き営業をしているというのが典型的な商売のありようだと思います。コストがかかる割にプロフィットが少ないという、採算のとりづらい市場セグメントなのです。

 にもかかわらず大塚商会の創業社長は、このセグメントに対して網の目のような支店網を築き上げました毎朝と毎夕、近隣の住宅に新聞を配達する新聞配達店と同じぐらいの支店網の密度を目指したそうです)。そして各支店には、営業担当者とサービス担当者を配置し、担当地域の顧客企業に呼ばれたらすぐ駆けつけることができるような、迅速できめ細やかなサービスを提供できる体制を整えています。

 業界の人が聞いたら「そんな馬鹿な!」と呆れるほどのコスト投下です。しかしこのコストは、中小企業という普通なら儲かりづらいセグメントを対象に莫大にかけているからこそ強靭な障壁となり、潤沢なプロフィットが生まれてくるという逆説が成り立っています。