地政学が一大ブームだが、そのベースとして必要なのは「世界地図を読む力」、すなわち各国の文化や歴史背景、政治経済や社会情勢に関する深い地理的知識に他ならない。本連載では、話題の新刊書『おもしろ雑学 世界地図のすごい読み方』からの抜粋で、日本人があまり知らない世界各地の意外な実情をわかりやすく紹介する。今回は、世界各地で絶えることのない、紛争と対立、分断がテーマ。
イスラム教国内のキリスト教地域、
ナゴルノ・カラバフ紛争の本質とは
新型コロナウイルスの感染拡大で世界中が悲鳴を上げていた2020年9月、カスピ海と黒海に挟まれたカフカス地方のナゴルノ・カラバフで、アルメニアとアゼルバイジャンの軍事衝突が勃発した。戦いは11月まで続き、事実上、アゼルバイジャンが勝利したが、民間人を含めて5000人以上が犠牲になったとされる。
そもそもこの紛争は、アルメニアとアゼルバイジャンによるナゴルノ・カラバフという領土をめぐる争いだった。
アルメニアとアゼルバイジャンはどちらも1991年にソ連から独立した国で、地理的には隣国同士である。しかし、その性格は似ても似つかない。アルメニアは世界ではじめてキリスト教を受け入れて国教にしたキリスト教国で、同じキリスト教国であるロシアとの結びつきが強い。一方、アゼルバイジャンはイスラム教シーア派が多数を占める国で、イスラム大国のトルコと友好関係にある。
こうしてみると、両国が仲良くするのは難しそうに思える。この関係をさらに困難なものにしたのがナゴルノ・カラバフなのだ。
ナゴルノ・カラバフはイスラム教の優勢なアゼルバイジャン国内に位置しながら、キリスト教徒のアルメニア系住民が全体の4分の3を占めている。ソ連時代、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの自治州で、中央政府の強大な力によって抑圧されていた。