初心は変わるもの
年を重ねるたび更新しつづける

秋山進秋山進(あきやま・すすむ)
プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役
Photo by Toshiaki Usami

秋山 今日はお二人にそれぞれ世阿弥の書から好きな言葉を挙げていただいています。まずは『風姿花伝』の20年後に書かれた『花鏡』の言葉で、「初心忘るべからず」を取り上げます。

「初心忘るべからず」は、現代では一般的に、最初にはじめたときの気持ちに戻ることを意味します。ただ、『花鏡』に書かれている「初心忘るべからず」の意味はずいぶん異なります。

「是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」

(現代語訳:未熟だったときの芸も忘れることなく、その年齢にふさわしい芸に挑むということは、その段階においては初心者であり、やはり未熟さ、つたなさがある。そのひとつひとつを忘れてはならない)

 つまり、「老年期になって初めて行う芸というものがあり、初心がある。年をとったからもういいとか、完成したとかいうことはない」とあり、そのときどきで、自分の心の状況を意識して、変えていくという意味合いなのかと思います。

 高田さんは、25歳で家業のカメラ店に入られて、お店を拡張し、その後はラジオショッピングやテレビショッピングなどを手がけて極められ、ジャパネットの社長を退かれた後はサッカークラブの運営もしてこられました。年代ごとに初心をあえて作られて、それを乗り越えられているとお見受けしますが、「初心」をどう捉えていらっしゃいますか。

高田 初心は、ひとつには、もちろん若い時の心構えだと思います。そして長く仕事をしてきて、いろいろな方とお会いして思うのは、どんな業界にあっても、どんな人でも、正しい初心から外れたとたん、人間がだめになり、後悔するということです。ただし、揺るぎない核としての心の持ちようはあっても、それをかたくなに変えないということではありません。

 室町時代は今とは違って、職業が流動的ではなかったでしょうが、今は、地球が狭くなり、世の中がめまぐるしく変化する時代です。ジャパネットでも、今日売れたものが明日売れるという確証はない。そんな激しい変化のなかで、初心と根本のミッションは同じでも、成長していくにしたがって、夢や目標もまた変わるのが自然です。変化する夢を初心の心で持つことが大事ではないでしょうか。

 そして、老後の初心。これは当時だと50歳くらいの話ですが、今なら80歳、100歳をも包含するものでしょう。どんなに年をとろうとも、昨日の自分を超えていく、今日の自分より明日はもっとよくなる。売り上げを上げるとか、もっともうけるとかではなく、より意義のある人生を生きる。初心をどんどん更新しながら生きていくこと、これこそが初心忘るべからずの意味だと思うのです。誰もがこの言葉を耳にしたことがあると思いますが、世阿弥の言葉だとは知られていないので、もっとみんなに知られてほしいですね。