金融資産が急に増えたと感じるのも危険

 退職金を受け取った瞬間、元サラリーマンの金融資産は急激に増加する。後になって自分の資産をじっくり眺めると、預金ばかりであると気付く。そんなときに、銀行の支店長室に通されて「投資信託を買いましょう」と言われたら、つい気分が舞い上がって一気に購入してしまうかもしれない。

 投資信託を購入すること自体は決して悪いことではなく、むしろ資産を全部銀行預金にしておくことの方がインフレのリスクを考えると問題であるのだが、重要なのはタイミングである。

 退職金の受領がたまたま株価の安い時であったならば、そのお金を投資信託につぎ込んでもラッキーだが、株価が高い時であったならば、大事な退職金の大きな部分を一気に失ってしまうことになりかねない。

 そうではなく、投資信託は毎月一定金額を積み立てていき購入することで、安い時も高い時も少しずつ購入することになり、平均的な値段で買うことができるのだ。そうすれば、不運に見舞われるリスクを大きく減らすことができる。

 退職金を褒美だと考えると、退職前にはあまり金融資産を持っていないと感じることだろう。金融資産が少ないのに多額の住宅ローンが残っていると感じること自体は、倹約するインセンティブとして悪くないが、現役時代に投資信託の積み立て投資を始めるインセンティブとしてはマイナスだろう。

「金融資産より借金の方が多いのは不安だから、投資信託など買う金があるのなら、急いで借金を返したい」「金融資産を少ししか持っていないのに、投資信託をこんなに多く持っているのは危険すぎる」と感じる人が多いからである。

 現役サラリーマンは、ぜひ退職金受領後の金融資産をイメージしてみよう。現役時代は住宅ローンの繰り上げ返済を急いだこともあり、金融資産残高が少なかったため、預金も株式(投資信託を含む)も少なかったはずだ。急に退職金が振り込まれたため、金融資産が預金ばかりになり、投資信託が買いたくなる。