よくも悪くも潔く尖った仕上がり
腕に覚えのあるドライバーにこそふさわしい

 実際、3.3秒という0→100km/h加速のデータを持ち出すまでもなく、M5コンペティションの全力加速力は“凄まじい”のひとこと。1.9トン超という重量を、まったく意識させない。その速さは、せっかくの“V8サウンド”さえ味わう暇がないほどだ。これでは、“さすがにアウトバーンでも持て余してしまうのではないか?”と思った。セダンながら、パフォーマンスはまさしくスーパースポーツ級。パワーをフルに解き放つにはサーキットに足を運ぶ必要がある。

 一方で、全力走行へと至るまでのアクセルコントロールを節度を持って行えば、つねに十分な余力と甘美なフィーリングを味わうことができる。つまり絶対的な速さだけでなく、走りの一瞬、一瞬でもドライバーに快感を与えるのだ。そんな二面性がM5の魅力だ。

 大柄なセダンではあるものの、サーキット・ユースを意識していることは、減速時のショックを許容する8速ATや、硬質なサスペンションのチューニングにも実感できる。

 よくも悪くも潔く尖った仕上がり――M5は、腕に覚えのあるドライバーにこそふさわしい。

(CAR and DRIVER編集部 報告/河村康彦 写真/小久保昭彦)

CAR and Driverロゴ