その一方で、「扶養照会はなくすべき」と考えている回答者は全体の19%にとどまり、47%は「現状でよい」と回答している。扶養照会が必要な理由としては、「何かあったときの連絡先」(89%)と「精神的援助の可能性」(71%)が圧倒的多数である。それらは確かに、必要であり重要であろう。しかしながら、貧困の当事者はしばしば、「それなら、生活保護と生きることを諦めよう」と考えてしまうのだ。

「扶養照会はあるべき」と
刷り込まれているケースワーカー

 扶養照会は、なぜここまで必要とされるのだろうか。この調査を企画・実施した中村健さんに尋ねてみた。中村さんは、長年にわたって生活保護の現場で経験を積んだ後、現在は新潟大学准教授として、社会福祉学の教育と研究にあたっている。

 扶養照会の目的は、現金による仕送りだけではない。厚労省の現行の局長通知には「精神的援助も確認するように」とある。

「ご本人が『援助は望めない』と言っても、ケースワーカーが扶養照会をする場合が多いのは、この局長通知があるからです。しかし、精神的援助の可能性を重視するあまり、生活保護の目的が達せられなくなってもよいのでしょうか?」(中村さん)

 中村さんが言う「生活保護の目的」とは、まず生存権の保障であり、信頼関係に基づく自立支援である。その結果として、就労による生活保護からの脱却に至るかもしれない。

「生存権を保障し生活保護の目的を達成することと、局長通知と、どちらがより大切なのでしょうか。天秤にかければ、誰にでも分かるでしょう。それなのに、その視点が欠けています。生活保護制度における現行の扶養照会は、見直されるべきだと考えています」(中村さん)

 中村さんは、扶養照会を受けた親族の反応も懸念する。経験や見聞の範囲では、「私が仕送りしなければ、この人は生活保護を受けられない?」という誤認や混乱、「仕送りできなくて申し訳ない」という罪悪感、さらに「この人に生活保護を受けさせるなんて!」「「この人のことで二度と連絡してくるな! 死んでもだ!」という怒りもあったという。