リーマンで生活保護に駆け込んだ?

 第一に、生活保護の高齢者世帯が増加するのは、年金支給額が不十分だからだ。年金不足とは、過去に十分な年金保険料を支払っていなかった人がいるという問題である。

 その理由は、一つは政府の徴収能力の不足だ。もう一つは、90年代以降の長い経済停滞で、正規社員になることができず、年金保険料を払うことが困難だった人が多いという問題である。

 年金の専門家には、年金保険料を支払わなければ年金をもらえないのだから、年金会計にはなんら負担にならないと議論する人がいる。その通りだが、年金がないから生活保護を受けることになり、生活保護会計には負担になる。

 また、景気の悪化が、高齢者の雇用環境をことさらに悪化させ、結果、高齢者が働けなくなり、生活保護を受給することになることも考えられる。年金保険料の徴収と景気を良くしておくことの両方が大事だということだ。

 第二に、その他の生活保護世帯である。前述のように、その他世帯とは、高齢者世帯、母子世帯、障害者・傷病者世帯を除く世帯である。それらを除く世帯とは何か、なぜ高止まりしているのかと、厚生労働省の統計担当者に電話で問い合わせたところ、「その他世帯の内訳は分からないし、09年以降、高止まりしている理由も分からない」とのことだった。

 私の考えるところ、リーマンショックの不況期に生活保護に入った後、そこから抜け出せなくなってしまった家計ではないだろうか。リーマンショックは急激な所得減であり、かつ、そのような大きなショックがあることを日本の制度は前提としていないので、所得減少を一時的に和らげる措置が不十分だった。そこで生活保護が避難手段として用いられた。

 生活保護は、一時的な支援を受けて、保護から立ち直るのが望ましいとされている。生活保護法第1条に、「国が生活に困窮するすべての国民に対し、…(中略)最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する」とある。

 しかし、生活保護には貧困の罠がある。働けば給付を減らされ、進学すれば給付を減らされる。であれば、働かず、将来の所得を高めるための進学もしないという状況に陥っているのではないか。それが高止まりに現れているのではないか。

 貧困の罠という問題は常にある。ではなぜ、その問題が09年以降に現れてきたのだろうか。それは、繰り返しになるが、リーマンショックの所得減が大きく、一挙に貧しくなり、それゆえ貧困の罠に陥る人々の数も大きくなったからだろう。

 さらに、それ以前、90年代の失業の増加にもかかわらず生活保護世帯が増加しなかった我慢が続かなくなったということもあるかもしれない。これは第3の謎の答えにもなる。