現行の枠組みでは、海保で対応しきれない時には海上自衛隊が海上警備行動として警察的な法執行対応に出る。

 いまでも必要に応じて尖閣周辺では海保の巡視船の近くで自衛隊の艦船がいて警戒をする体制だし、実際、99年3月の能登半島沖での北朝鮮の工作船とみられる不審船事件で海上自衛隊が出動したこともある。

 このときは巡視船と一緒に追跡して、威嚇発砲などをして臨検なども試みたが、最終的には逃走された。その後、政府は2015年に海上警備行動を電話閣議で迅速に発令できるようにしたし、自衛隊と海上保安庁の合同の訓練も常時やっている。

 しかし、どういう状況下で自衛隊が海保とスイッチして前面に出て応戦することが妥当なのかはなかなか判断が難しい。

 中国海警の船に海上自衛隊の艦船が対応すれば、日本が先に軍隊を出したと、中国側に正当性をもたせる口実を与える恐れがあり、実際に中国海軍が介入してくる可能性もある。

 事態をエスカレーションさせるリスクや、そうなった際には日本が非難されるということにもなりかねないので、注意する必要がある。

安保5条の適用は簡単ではないが
日米連携は抑止力として重要

――仮に尖閣諸島周辺で日中が武力衝突する事態になった場合には、日米での連携の問題が出てきます。16日の日米首脳会談でも、米軍が共同対処する安保条約5条を尖閣に適用することが改めて確認されました。

 日米安保条約5条には、「各締約国は日本の施政の下にある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃」の際に、共通の危険に対処するよう行動すると書いてある。武力攻撃でないと安保条約第5条の発動にはならない。

 しかし、武力攻撃とする根拠はなかなか難しい。武力攻撃というのは、組織的、計画的な武力の行使を言い、武力の行使とは、国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為を言う。

 例えば、10人ぐらいの漁民のような連中が武器を持って尖閣に上陸しようとしたり、弾を撃ってきたりというのを武力攻撃といえるのか、どうか。それはこの定義には入らないだろう。

 武力攻撃だと説明できないと、国連安保理で武力攻撃とは認定されず、そうなると安保条約5条の発令要件を満たさない。

 仮に武力攻撃というのが明確であっても、中国は安保理の常任国で拒否権がある。だから中国がかかわっている時は、武力攻撃と認定するというのはなかなか難しい状況だ。

 また、中国が明確に武力攻撃となるようなやり方をするとは思えない。