時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。
機会損失の「見える化」をしてみて、
初めてわかった衝撃の事実
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。神戸大学非常勤講師。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKI HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ、三城(現三城HD)、ワールド、卑弥呼などがある。2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員として請け負う。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。著書に、『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCA プロフェッショナル』(東洋経済新報社)、『PDCAマネジメント』(日経文庫)がある。
ある会社で、機会損失の「見える化」に着手したのですが、実際にやってみたいくつかのカテゴリーは全て20~30%の売上機会損失が表面化し、その分析結果をもとに、策定して手を打ったアイテムは軒並み+20%以上の伸びを示しました。
あわてた商品部長はすぐに社長のもとに向かい、
「もう大丈夫です。やり方は体得しました。これ以上の指導は不要です。自分たちだけでやっていけます」
と説得してプロジェクトが本格始動する前に終了させました。
結局、最初の段階でこの取り組みを行った二人のバイヤーはとても有能だったにもかかわらず、商品部からは外され、1人は退社、1人は新規事業に回されました。
おそらくこの商品部長は、そのままプロジェクトを続けると、自分の管理責任のもとでどれだけの機会損失が起きていたのかが表面化することを恐れたのでしょう。
その後、この会社では、本来見込まれていた売上上昇の話はありませんでした。
おそらくこの商品部長は、実際に商品カテゴリーごとに機会損失を明らかにする「見える化」を、自分の力で推進することはできなかったのでしょう。
これは、トップによる組織の押さえがしっかりしていなかったがために起こった事例であり、せっかくの事業の活性化の機会を、保身に走る幹部により封印されてしまった例です。
この機会損失の「見える化」はあくまで一例ですが、これがなされにくい背景としては、このようにこれが定量的に明らかになっていくと、管理者の責任が問われることを恐れ、自己保身から隠ぺいに走るということがあります。
だからと言ってその商品責任者が、この「見える化」を自身で推進できるかというと、まず自分たちではやりきることができなかったというのが、悲しいかな現実です。