英ウィリアム王子、ジョンソン首相も批判
競技団体とファンから総スカンで瓦解

 しかし、結果から先に言えば、JPモルガンは日本時間4月23日に、スーパーリーグからの撤退を示唆する緊急声明を発表した。JPモルガンの口座解約を個人や企業に求める抗議活動がヨーロッパで広まった中で、声明には構想が瓦解した理由が凝縮されていた。

「この取引が、サッカー界からどのように見られ、将来へどのような影響を与えるのか、という点についてわれわれは明らかに判断を見誤っていた。今回の一件から学んでいきたい」

 若い世代へ訴求性を高める手段として、ペレス会長は前後半の90分間で行われている現行の試合を、NBAに倣ってクオーター制に変える私案も披露していた。これが、古き良き伝統を大切にするヨーロッパ、とりわけサッカーの母国という自負を抱くイングランドで猛反発を受けた。

 スーパーリーグに参戦を表明した6クラブの公認サポーター団体だけでなく、イングランド・サッカー協会の総裁であるイギリスのウィリアム王子までもが激しく批判。ボリス・ジョンソン首相は、法整備を含めてあらゆる手段を行使して構想を阻止すると明言し、現役の選手や監督からも反対する声が上がった。

 かねてペレス会長らと水面下で調整の場を設けてきた、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)も黙ってはいなかった。3カ国のサッカー協会やリーグ機構との共同で発表した声明の中で、スーパーリーグを「私利私欲に基づいた、冷笑的なプロジェクト」と一刀両断した上でこうつづった。

「Enough is enough(いい加減にしろ)」

 国際サッカー連盟(FIFA)も同調した中で、UEFAは、スーパーリーグに参加したクラブは各国内、ヨーロッパ、世界レベルで行われるすべての大会から除外されると警告。所属選手が母国の代表チームにおける出場機会をも失う可能性があるとまで踏み込んでいた。

 激しい批判にさらされた状況下で、ロシア資本のマンチェスター・シティとカタール資本のチェルシーが脱退を表明。発表から2日とたたないうちに、残る4つのイングランド勢も追随し、マンチェスター・ユナイテッドに至ってはキーマンのウッドワードCEOが年内限りで辞任すると発表した。

 脱退の連鎖はイタリア勢と、スペインのアトレティコ・マドリードにまで伝播。レアル・マドリードとバルセロナだけが残った中で、スーパーリーグ参戦へのオファーを拒否したとされるドイツの強豪、バイエルン・ミュンヘンは声明の中でヨーロッパサッカー界が歩むべき道を説いた。

「新型コロナが生み出した各クラブの財政的問題を、スーパーリーグが解決するとは思わない。むしろヨーロッパのすべてのクラブが連帯してコスト構造の改造を、特に選手の報酬やエージェント費用がコロナ禍における収益と見合ったものにするように取り組む必要がある」

 アメリカ資本がからんだ性急なスーパーリーグ構想は完全に崩壊したが、騒動の発端は今に始まったものではない。チャンピオンズリーグの拡大など、増収を第一に掲げる施策を採ってきたUEFAと、有力選手を数多く抱えるビッグクラブとの軋轢は、形を変えて繰り広げられていくだろう。