上司も上司である。仕事を発注する際に、仕事をする人の能力と難易度の関係、必要な工程とその時間数などを事前に考慮して納期の打診をする人はほとんどいない。また、「急ぎの仕事」などというが、本当に急ぎであることも少ない。
ただ、余裕を持たせすぎるとその仕事自体を忘れてしまうので、急ぎだなどと言っているにすぎない。急ぎといって部下に書かせたレポートを受け取ってから一顧だにせず、寝かせ続けた揚げ句、1カ月後の会議で当の上司がそのレポートをもとに役員に報告しているということもざらである。
要するに、上司の要求する納期はいい加減なものであり、部下の要求する必要時間もいい加減なのである。製造現場やシステム開発の現場における社内や取引先との業務において、あれだけ工程管理を厳格にし、時間のロスをなくそうと努力しているにもかかわらず、ホワイトカラーの社内における業務の納期設定については、キツネとタヌキの化かし合いのような、きわめて非生産的なことが今日もあちこちの会社で行われている。
仕事を依頼する上司が
準備すべきこと
上司は、依頼の前に仕事の完遂まで何が必要かを想定して依頼しなくてはならない。その上で、「どうにか2週間後までには」などと返答されたら、この業務を完遂するためにいったいどんな工程が必要と考えているのかを、部下に尋ねることが必要だ。
部下はおそらく「資料集め、ヒアリング、仮説づくり……」などと、工程を示せと言われて初めて考えた内容をしどろもどろになりながら語り始める。そのとき、それをホワイトボードに書き記していくと良い。
部下がきちんと工程のイメージを捉えられていない場合は、「先行の同様の調査報告書を読んだほうが良いよ」とか「社内だとこの分野に一番詳しい人は○○さんだから、○○さんに話を聞きに行ったほうが良いよ」などと、補強したい工程を入れ込む。一方で、二度手間になりそうなことを省きながら、一緒に工程を明確化していく。そして、1工程ごとに必要な時間数や日数を部下に聞いて書き入れ、その確からしさを高める。すると、2週間かかると言っていた業務は、長くても1週間、うまくいけば3日から4日程度で終了する仕事であることが判明するだろう。
併せて、内容があさっての方向に行かないように、このレポートは(1)何を目的に作られるべきか(その後どのように使われるか)、その上で(2)達成してほしいこと(3社の商品のうち、どの商品を購入するのが当社にとって良いか、考慮すべき必要な選定基準を明確にした上で、仮評価し皆で検証できるようにすることなど)、(3)押さえておくべき制約条件(予算範囲は○○~○○円、使用期間は○年以上○年以下など)、(4)完成した内容のイメージ(ワード文書中心、全体像をまとめた図表を1枚必ず入れるなど)、(5)緊急性と重要性(どのくらい緊急で、どのくらい重要なものか)などを明確に提示しておくことも必要である。
部下に依頼を出す前の段階で、このようにガイドラインを設定し、部下とともに工程の見積もりを話し合いつつ一緒に計画を練るならば、出来上がってきた内容がトンチンカンなものになることはない。日程も大幅に短縮でき、かつすぐに使えるものが出来上がってくる可能性が飛躍的に高まる。