「なぜそうする必要があるのか?」を徹底的に言語化する

――「仕事の基本」のバイブルとして10年も読み継がれ、50万部を超えた本は『入社1年目の教科書』だけです。岩瀬さんの本が、ここまで多くの人に読まれているのはなぜだと思われますか。

岩瀬 ひとつは、「入社1年目」という切り口が、読者が明確でわかりやすかった点が大きいと思います。「何があっても遅刻はするな」「メールは24時間以内に返信せよ」「朝のあいさつはハキハキと」といった基本的なことは、他の本にも書いてあるようなことかもしれません。そういった、ごく基本的なことも含めて「入社1年目の今、身につけるべきスキル」として紹介したことがよかったのではないでしょうか。

それともうひとつ、『入社1年目の教科書』はいわゆるノウハウ本というよりも、「仕事の本質を伝える本」として、一冊にまとめたことが大きいと思います。

長く読まれ続ける本を書いている人は、洞察力や本質を見極める力があって、それを言語化することが得意なのだと思います。世の中を見るときに、表層で起きていることだけを追うのではなく、「なぜそうなっているのか?」「何がポイントなのか?」と、深層にある意味を読み取ることができます。

僕は子どもの頃から、何か新しいことをはじめたときに、勘どころやコツをつかむのが早かったので、仕事でもその資質を活かしてきました。さらに、そうやって蓄積してきた経験をそのまま伝えるだけではなく、「なぜそうする必要があるのか?」といった根拠や理由についても、できるかぎり言語化して体系的にまとめました。

例えば、携帯からスマホなど、仕事のツールは時代とともに変化していますが、仕事において大切なことは何か、といった本質は今も変わりません。
それゆえ、10年経っても読まれ続ける本になったのではないかと思います。

――洞察力や、本質を見極める力は、子ども時代のイギリス生活やハーバードで学んだ頃の海外経験によって鍛えられたのでしょうか。

岩瀬 それは、あまり関係ないと思います。持って生まれた性格や資質が人それぞれ違うように、僕はたまたま洞察力に長けていたのかもしれません。

ただ、この本に書いたことは、特殊な能力は一切必要がない、誰にでもできることばかりです。つまり、仕事の基本はそれほどシンプルなものだと考えています。あとは「やるかやらないか」だけです。入社1年目の人は、目の前の仕事に全力で取り組むのはもちろんのこと、自分の才能を高めるためにできることは、何でもやってみる。それが、5年後、10年後の自分をつくることは言うまでもありません。

入社1年目で「仕事ができる人」は何をしているのか?岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険株式会社創業者
1976年埼玉県生まれ。1997年司法試験合格。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティンググループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で終了(ベーカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長に就任。同年7月より18の国や地域に拠点を有するアジア最大手の生命保険会社であるAIAグループ(香港)に本社経営会議メンバーとして招聘される(いずれも2019年退任)。2020年よりスパイラルキャピタルのマネージングパートナーに就任、テクノロジーで業界変革や産業創出を行う企業の支援を行う。また、ベネッセホールディングス、メドレー等の社外取締役も務める。 著書は『入社1年目の教科書 ワークブック』(ダイヤモンド社)、『ハーバードMBA留学生―資本主義の士官学校にて』(日経BP社)、『生命保険のカラクリ』『がん保険のカラクリ』(共に文春新書)、『ネットで生保を売ろう!』(文藝春秋)など多数。

入社1年目で「仕事ができる人」は何をしているのか?