入社シーズンから1ヵ月が経った。新しい環境、新しい人間関係に戸惑いながらも、仕事を覚えはじめている人が多いだろう。まだ、何をすればいいのかわからないという人もいるかもしれないが、入社1年目はスタートダッシュの大事な時期。まずは走り出さなければいけない。しかし、走り方によって歴然と差が出るのもこの時期だ。
では、入社1年目に何をすれば仕事を早く覚えられるのか? 5年後、10年後に活躍するためには、どのような心構えで仕事に向き合えばいいのか? そんな疑問や不安を抱える人に読まれ続けて50万部を突破した本が、新入社員のバイブル『入社1年目の教科書』である。
著者は、大学卒業後、外資コンサルティング会社などを経て、ハーバード大学経営大学院に留学。帰国後に戦後初の独立系生命保険会社・ライフネット生命保険会社を出口治明氏と創業した岩瀬大輔さんだ。そこで今回、ご本人に、仕事ができる人が入社1年目から守り続けている原理原則について話を聞いた。
(取材・構成/樺山美夏)
上司と部下がお互いにフィードバックするサイクルで人は伸びる
―― 毎年春になると、『入社1年目の教科書』で仕事の基本を学ぶ人が急増します。岩瀬さんはこの本を35歳のときに書いたわけですが、入社1年目のときはどのようにして仕事を覚えたのでしょうか。
岩瀬大輔(以下、岩瀬)僕が新卒で最初の会社に入社したのは今から20年ほど前ですから、インターネットの普及がはじまった頃。今に比べると情報はかなり少なく、今みたいに、Googleで検索すれば何でも調べられる時代ではありませんでした。当時は、ビジネス書を買ったこともなかったので、本やメディアの情報を参考にして仕事を覚えたこともありません。
ただ、最初に入社したボストン コンサルティング グループは、人の育成をものすごく重視していた会社だったので、それは非常にありがたかったです。たとえば、ひとつのプロジェクトが終わるたびに、上司が部下の評価内容をフィードバックして、部下も上司の評価内容をフィードバックする。
そういうことを2、3ヵ月に一度ずつ繰り返して、「ここはよくできています」「ここは改善点ですね」といったお互いの仕事ぶりを細かくフィードバックするサイクルがあったので、仕事を早く覚えられました。悪いところはどんどん指摘してもらって修正したほうが、効率的に覚えられますから。
コンサルティング会社は「人が財産」です。特に僕がいた会社は、上司の評価内容にも「人を育てられるか?」という項目があるほど、部下の育成に対する意識づけを徹底していました。ですから、新入社員でも自分にできることに積極的に取り組んでいるだけで、周りが評価してくれたのです。逆に先輩や上司の仕事ぶりを見て、見習っていたところもたくさんありました。
―― 先輩や上司の仕事の仕方を、見よう見まねで覚えたわけですね。
岩瀬 そうですね。特に、実践的に仕事を学べたのはOJT(On the Job Training)でした。先輩たちと一緒にクライアントを訪ねたときは、立ち居振る舞いから、人との接し方、話し方、プレゼンの仕方まで多くを学びました。
また、クライアントの前だけでなく、いつでも誰に対しても、例えばタクシーの運転手さんに対しても、とても丁寧な対応をする先輩がいました。降りるときは必ず「お世話さまでした」と礼を尽くすその姿が、入社1年目の僕にとって憧れの存在になるほど格好良く見えたものです。そういう先輩たちを見て育ってきたのは、大きかったと思います。